選ばれたんだって! 杏里ソングにまつわるエピソード


杏里ブックレット


 


僕の人生の半分以上聴き続けているアーティストが何人かいる。杏里もそんな一人。『オリビアを聴きながら』や『CAT’S EYE 』というメガヒットがあるけど、やっぱり好きなのは作詞:吉元由美 作曲:ANRIによる作品たち。詞が、曲が、声が・・・ではなくて、それぞれが共振している感じがする。そんな杏里ワーナーミュージックに移籍して出した最初の作品が『Heart to Heart ~with you~』。ワーナーミュージックのサイトにはこのアルバム向けの特設サイトが用意され、そこにはこんな記載があった。


杏里 Heart to Heart 〜with you〜 スペシャルサイト


 


普段だったら何とも思わないこのエピソードの応募にちょっとだけ感じる部分があって、ずっと気になりながらもそのまま放置していた。でもリアレンジされた『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』を聴くうちに20数年前の記憶が鮮明に想い出され、一気にその頃のことを文字にしてみた。ほぼ推敲なんかせずに記憶の感じるままに書き終え、全く意識をしないまま応募していた。冷静だったら書かなかったかも知れないし、ましてや応募なんてしていなかったと思う。でも応募のボタンを押した瞬間になんとなくやり遂げた感があったのは事実。


 


そして今日。ワーナーミュージックから宅急便が届いていた。「なんだろう」と思って包みを開けると杏里のサインが入ったブックレットが入っていて、一緒に入っていた送り状には


ご投稿頂きました楽曲にまつわるエピソード/感想の数々の中から、最終的に杏里自身が、お客様のご投稿作品を選ばせていただきました。


と。「選ばれたんだ・・・」って、うれしい気持ちとちゃんと理解できていない僕がそこにいて、取りあえずヘッドフォンをしながら『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』をもう一度聴いてみる。アルバム「BOOGIE WOOGIE MAINLAND」とは全く違うアレンジ、歌い方はほんとにそばで歌っているような錯覚を覚える。


応募したエピソードはサイトでも公開されるらしいけど、恥ずかしいそのエピソードをここにも載せておきますね。ちなみにこの内容は創作ではなく、100% 20数年前の実際の僕。一気に書いてからほぼ修正していないので荒削りな部分はあるけど、感じたままをそのまま表現しているつもり。


 



『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』


「カチッ」と部屋のステレオのタイマースイッチがOnになり、ドラムがリズムを刻む。ギターがそのリズムを追いかけ出すと


 


”眠い目で窓を開け 眩しさに手をかざしたら・・・"


 


杏里の歌声でその日一日が始まる。'88年の夏はそんな年だった。今から思えば時代はバブルの絶頂期、デザイナーの名前を冠したブランドの服が闊歩し、スノッブな店に客が集まるような時期だった。でも、大学生だった僕には経済的なゆとりはなく、デートでできることは必死で知恵を絞って臨むことだけだった。


 


学校の授業には出ず、原宿に向かい、今でこそ裏原宿といわれているようなエリアを歩き回り雑誌に紹介されていない、でもちょっとだけ気になる店を躍起になって探しまわり、当日のシミュレーションをした。歩き疲れて休む場所も自然と決まっていて、表参道沿いの「Cafe PIAZZA」の通りに面した席が指定席のような感じだった。


今だったら、たとえ昼間でもビールを注文するところだけど、その頃はビールは夜の飲み物という意識があり、ペリエを飲みながら表参道を歩く人たちを眺めていた。


 


デート当日、少し大人を気取って原宿ではなく、表参道駅を出たところで待ち合わせ。表参道を下ることはせず、まるで迷路のような道を通りながら、


 


「この道が近道なんだよ」


 


と通ぶって話した気がする。入念に歩いてチェックしているので迷路のような住宅街の中でも迷うことはない。目指していたのはブティックやアクセサリーショップをではなく、裏通りの小さなギャラリー。アンディ・ウォーホールの作品を見にいったのはこの時だったか・・・。もしかしたらキース・ヘリングだったかも知れない。別にどちらでもよかった。これらはフックでしかないのだから・・・それよりも彼女が僕に気持ちを傾けてくれれば何でもよかった。


夜は話を中心にするためにBarを選択した。数年前なら、「キーウエストクラブ」でキーウエストクラブ・パンチを注文すれば、初めてその店に訪れた人はほぼ感動する。広い店内の遥か彼方からカクテルから飛び出た花火に火が付けられ、薄暗い店内で注目を浴びながら彼女に届けられるのである。その頃はそんな奇抜で出来合いのアイデアではなく、カクテルストーリーなどを話しながらこの後のシナリオを実行する。はずだった。


事実はその彼女に笑顔で手を振り、誰もいない部屋に帰った。


 


翌朝。いつもと同じ時間にタイマーのスイッチの音がして『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』がかかる。本当だったら二人で聴きながら起きるはずだったのに・・・・。


 


リアレンジされた『BOOGIE WOOGIE MAINLAND』はオリジナルを遥かに凌ぐ出来だった。杏里の声が曲と一体化し、時にはメロディのリズムを外してまるで語りのような細工がされている。20年以上の時を経た今、もしもう一度彼女に逢えるならこの曲と一緒にこの話をしたいな。


 




"Heart to Heart 〜with you〜" (杏里)