バーカウンターで飲みながら 『亡命者 ザ・ジョーカー』 大沢在昌




"亡命者 ザ・ジョーカー (講談社文庫)" (大沢 在昌)


 


『ジョーカー』100万の着手金で危険を顧みずトラブルを解決するプロフェッショナル。六本木のバーを事務所代わりにして仕事を受ける。黒社会の幹部であればその名は知られ、駆け出しには無名、それがプロフェッショナルの証でもある。そんな『ジョーカー』が活躍する第二作目が本書である。


大沢在昌氏の初期の作品で佐久間公シリーズがある。大きな弁護士事務所に所属する家出人調査員が主人公の作品であるが、この佐久間公は大沢氏と共に成長してきた作品でもある。今やベテランになった氏の初期からのテイストを受け継ぐ作品がこの『ジョーカー』でもある。だからこそ短編で、ハードボイルドを強く意識した作品に仕上がっており、また氏の代弁をするシーンが多いのも特徴である。


 


本書では少しだけ『ジョーカー』の過去が紹介されている。今の『ジョーカー』は二代目で先代のアシスタントをしており、先代の引退にあわせてその看板を引き継いだ。先代に絡んだエピソードは前作『ザ・ジョーカー』の『ジョーカーの伝説』を読んでいただきたい。




"ザ・ジョーカー (講談社文庫)" (大沢 在昌)


 



トランプ遊びの七並べでジョーカーの札は、「つながらない数と数のあいだを埋めるのに使う。使ったあとは用がない。そこに捨ておかれるか、別の人間が使う」


ジョーカーがジョーカーたる所以で、前作の中でも本書でも使われているジョーカーのセリフである。非常に刹那的な言い回しだが、表と裏の両方の世界を行き来し、そこを生業として生きていくために必要な感情なのかも知れない。情に流されないように。ジョーカーの仕事の中で情に流されれば、それは死を意味するものだから。


 


本書は6編のエピソードで構成されているが、中でも『ジョーカーの感謝』がお気に入りの一つである。かつて四谷の地上げに絡む仕事を請け負ったジョーカーがココに送ったブレスレットが送られてきたことから話が始まる。その時を回想しながらその時の仕事の内容が明かされる。仕事そのものは非常に単純で四谷で染物屋を営む店が地上げにあっており、その地上げ屋から守って欲しいというのが依頼だった。派手な出で立ちで登場し、着手金の札束を出したのはかつてのその店の娘として生まれ、家を飛び出したココだった。シンプルな地上げが実は複雑な絡みをみせる。この辺は大沢ワールドの真骨頂でもある。そしてスパイスは『ブラック・ベルベット』。シャンパンベースの派手なカクテルだ。地上げ、ブラック・ベルベット、六本木とバブルを彷彿させるキーワードが繰り広げられる。バブルを知っている世代にはたまらないショートストーリーかも知れない。


 


『ジョーカー』は読む場所を選んだ方がいい。できれば馴染みのバーカウンターなんてところは最高の場所だと思うが、試してみる価値はあると思う。