『氷の世界』もう一つの楽しみ方 『氷の世界―シナリオ集』 野沢尚




"氷の世界―シナリオ集⟨3⟩ (幻冬舎文庫)" (野沢 尚)


氷の世界』の後半はシナリオ集と対比させながらドラマを見てみた。シナリオといっても台本とは違うのでセリフは微妙に違う。そして、セリフの前に書かれたカッコ書きの部分が重要な役割を果たしている。ここにはセリフに秘められた気持ちやシチュエーションが書かれているからだ。


一般的にドラマの原作は存在していてもなかなかシナリオが存在するケースは稀なので、こういう楽しみ方はそうそう経験できるものではない。が、野沢尚の作品は考え尽くされた脚本になっているので単純にドラマを楽しむだけではなく、中身を吟味しながらより深く理解することができる。


ドラマとシナリオを照らし合わせながら見ると、役者の表現力の良し悪しも如実に出る。この『氷の世界』出来を支えているのは主人公


江木塔子を演じた松嶋菜々子だ。特に彼女の『微笑み』が言葉以上に意味を持っている。彼女が浮かべる『微笑み』には大きく2つあり、一つは何かを含んだ怪しげな笑み、もう一つは幸せいっぱいの笑顔だ。この表現力はすごい。そしてこの『微笑み』のせいで見ている側はミスリードされ、何度も自分の推理を自己否定する羽目になる。


もう一人の主人公 廣川英器を演じる竹野内豊の演技力は評価に値しない。ドラマを見ながら常に代替えの役者は誰が適任かと思い続けていた。ただし、このシーンだけはシナリオに書かれている以上の演技で、大きな役割を果たしている。


 



第十幕 対決


バー『アイス・ストーム』(夜)


英器「(心の痛みに焼かれながら、笑みを浮かべ)事件が解決したら、また飲みませんか」


この前に桧山のネガから真犯人の確信を得た後の英器のセリフ。そしてドラマではセリフになっていない英器と烏城の会話の後だからこそ、この一言は難しいセリフだと思う。何度もこのドラマを見てみると、このシーンがあるかないかで英器と烏城の関係、バー『アイス・ストーム』の価値など影響力がある。『神は細部に宿る』というがまさにそんな1シーンだ。




"氷の世界DVD BOX" (ポニーキャニオン)


 


シナリオ集とDVDの両方でドラマに秘められた野沢尚の思いを確かめてみてはどうだろうか。


 


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[Movie]待ちに待った『氷の世界』、その楽しみ方 2010-11-09