現代版ジェームズ・ボンドを完全に描ききってる 『007 白紙委任状』 ジェフリー・ディーヴァー




"007 白紙委任状" (ジェフリー・ディーヴァー)


 


『007』を聞けば、おそらく多くの人は映画007シリーズのジェームズ・ボンドをイメージすることだろう。さて、その中で何人の人がイアン・フレミングの原作を読んだことがあるだろうか。なんでこんなことを書いたのかというと、映画の007と小説の007は全く別ものであり、今回のジェフリー・ディーヴァーが描く007は間違いなくイアン・フレミングの007のテイストでありながら、現代にジェームズ・ボンドをプロットしてジェフリー・ディーヴァーが料理した作品になっている。


 


具体的には、



派手なアクションシーンが出てくるわけではない。


これは映像と小説という活字メディアの違いもあるが、明らかにイアン・フレミングをリスペクトしていると感じられる。それよりも、「海島綿のシャツ」などディティールを描写する表現をしたり、スパイツールなどよりもオペレーションの表現に多くのページを割いている。



SF的ではなく、現代を舞台にした仕上がりである


特にロジャー・ムーアジェームズ・ボンドを演じていた映画ではSF的ツールや表現が多く見られたが、この路線ではない。大きな理由として考えられるのは、70-80年代はまだまだハイテクの領域がまだまだメカニカルな時代であったが、現代のハイテク技術はシリコンウェハース上に鏤められたチップの世界なのでツールそのものに趣を置いているのではなく、スパイとしての動きの描写をメインにしている。


 


少しだけ内容に触れておくと、今回のジェームズ・ボンドはMI6のエージェントではなく、ODGという政府機関のセキュリティ・アナリスト。英国の国益を守るという部分ではかつての立場と近しいが、MI5やMI6はそれぞれ存在し、連携と欺きを使い分けながらテロの阻止に自ら危険なところに突き進んでいく。活動場所は英国を中心としたヨーロッパにとどまらず、ドバイや南アフリカとスケールも大きい。ちなみにタイトルにもなっている「白紙委任状」とは英国に於けるジェームズ・ボンドの立場を表している。


007ファンを裏切らないという意味では、フィリックス・ライターやルネ・マティスも登場する。そして組織は違えどもジェームズ・ボンドの上司は「M」である。


 


イアン・フレミングの描くジェームズ・ボンドとは違いひねくれたところがないジェフリー・ディーヴァージェームズ・ボンド。しかし、読み出したら最後まで一気に突き進む(ボリュームは結構あるので徹夜を覚悟の上で読み始めることをおすすめします)。実際の時間軸はたった6日間しかない。ただし、「24」ではないが、その中身は007ならでは。


読み終えて一番最初に感じたのは、ジェフリー・ディーヴァーが描く007をダニエル・クレイグに演じて欲しい。