決して広告の話ではなく、どう仕事に向き合うべきかを考えさせられる一冊だ 『デイヴィッド・オグルヴィ 広告を変えた男』 ケネス・ローマン




"デイヴィッド・オグルヴィ 広告を変えた男" (ケネス・ローマン, Kenneth Roman)


 


この書籍は『本が好き!』から献本いただきました。


 


朝起きてTVのスイッチを押してもPCの電源をONにしても最初に押し寄せるのは「広告」である。電車に乗ってふと目を上げれば中吊り広告が「これでもか!」と脅迫する。もう少しすれば映画「マイノリティ・リポート」のように歩くだけでその人を認識し、パーソナライズされた広告に追いかけられる日もそう遠くなさそうである。しかし、そのほとんどは「ノイズ」で、少し大げさにいえば広告として成立していない。本書の主人公 デイヴィッド・オグルヴィの言葉を借りれば、



消費者はバカではない。消費者はあなたの奥さんなのだ。彼女の知性をあなどってはいけない。


そう、小手先でおもしろおかしく作られた広告は「クリエイティブ」と勘違いされ、高級な制作者はクライアントのためではなく「賞」のためにアイデアを捻りだそうとするのである。


本来、広告は商品を「売る」ためのものであり、その効果を計れなければ意味がない、という本質のもとでクリエイターとして、リーダーとして活躍したデイヴィッド・オグルヴィを描いた作品が面白くない訳がない。


 


Googleで"オグルヴィ"と入力して検索すれば「オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン」のサイトがトップに表示され、「創業者デイヴィッド・オグルヴィについて」というページにはデイヴィッド・オグルヴィについてのサマリーを読むことができる。ただし、「広告人」としてのオグルヴィ(表舞台の華やかな部分)のみで、彼のバックグランドを知るためには本書を読むしかない。



 


「広告には興味がないし・・・」と思った人、そんな心配は必要ありませんよ。何かしら仕事をしているのであれば、たくさんのヒントが鏤められている。もしイアン・フレミング「007」が好きならそのモデルと言われている人が登場するデイヴィッド・オグルヴィが諜報員時代の話はきっと前のめりでページを捲ることになるだろう。


 


僕が非常に気に入ったエピソードを一つだけ紹介しておこう。



「薬についていい広告を書けるコピーライターを見分けたいとおっしゃるなら、御社の錠剤の瓶を投げつけてみるとよろしい。受け取ってすぐにラベルを読み出したら、彼はプロです。そうしない輩にやらせてはいけません」。


この100文字強の中に、


  • いいコピーライターの見分け方

  • プロの仕事とは


の両方を説明している(ちなみにデイヴィッド・オグルヴィは優秀なコピーライターでもある)。この本を読みながら感じたのは、広告に限らず置かれたそれぞれの立場で「プロ」にこだわっている姿が魅力的なことである。だからこそ多くの人を魅了し、今なお「オグルヴィ」というブランドが存続しているのだと思う。しかし、彼は決して成功者ではない。その理由は是非ページを捲って答えを探して欲しい。