もう一人の狩人登場! 「黒の狩人」 大沢在昌

黒の狩人〈上〉

黒の狩人〈上〉

新宿のマルB刑事 佐江が「狩人」として活躍。「狩人」シリーズは毎回キャラクターが違うものの、犯人を追い詰める「狩人」の「誇り」は共通している。この「誇り」だけが狩人を駆り立て、たとえ大変なことが待っていようが向かっていく。
この「黒の狩人」は本当にあっという間に読んでしまった。それぐらい引き込まれるし、佐江の、そして由紀の次のアクションが気になる。刑事でない由紀は人が知らない、つまり公開されていない「情報」を入手し、頭の中で組み立て、次の行動を起こす。それで得することがあるわけではなく、言葉にすれば陳腐と言われそうな「愛国心」に支えられているだけである。情報のパイプ役で愛人でもある水森から「情報中毒」と揶揄され、それでもやめられない。中国安全部や日本の公安など国家レベルでの情報戦の渦中の中で一番大切なものが最後に胡志明の口から呟かれる。この一言のために800ページにも渡るストーリーがあるといっても過言ではない。
情報には「金」で得られるものと「情報」でしか得られないものがある。でも、最後はそれだけじゃない。それは佐江と毛との関係や距離感も同様。過去の狩人たちに比べれば、佐江は一番ベタなキャラクターだろう。だから読み手は佐江の魅力に翻弄されていく。常にどこかで「なぜ、佐江はここまで行動するのだろう」という疑問を持ちながら読み進めていくことになる。地位や金、名誉のためではなく、自分が自分らしく生きていく、あるいは生きている証を感じ、それは佐江自身が持つ「誇り」を決して裏切らないというルールの上に成り立っている。
主人公の佐江だけではなく、相棒の毛や由紀、公安のキャリア 一条も魅力的なキャラクターとして描かれており、かなり贅沢な作品に仕上がっている。この800ページはダテじゃない。
黒の狩人 下 (2)

黒の狩人 下 (2)