前作よりも更にバージョンアップして登場 『ドラゴン・ティアーズ -龍涙 池袋ウエストゲートパークIV』 石田衣良




"ドラゴン・ティアーズ 龍涙―池袋ウエストゲートパーク〈9〉 (文春文庫)" (石田 衣良)


 


ふと『池袋ウエストゲートパーク』の魅力ってなんなんだろう・・・と考えてしまった。今回の作品で九作目になるこの人気シリーズは発売されれば何の疑いもなく手に取り、そのままレジに進む。そして、毎回満足度の高い2時間を過ごすことができる。


僕が出した答えは、「写真のような空気感」があるから。日常ってなんとなく昨日と同じ今日があって、明日も同じような日が来るような錯覚に陥りがちだけど、その一瞬を切り取るとそれは非日常で、とってもエキサイティングだったりワクワクするようなことだったりする。だから、マコトというピュアなキャラの目線で池袋の「旬」の空気感を切り取るから作品として成立して、いつも応援したくなるのかも知れない。そんな九作目の「ドラゴン・ティアーズ -龍涙」はこの作品だけを読んだ人が楽しめることはもちろん、シリーズを通して読んでいる人は以前の話の延長線上に今回の話があることに気付くと思う。だって、池袋の街で起きている事件を切り取った物語りなのだから。


 


この「ドラゴン・ティアーズ -龍涙」にはタイトル作品を含む4作が収められていて、


  • キャッチャー・オン・ザ・目白通り

  • 家なき者のパレード

  • 出会い系サンタクロース

  • ドラゴン・ティアーズ -龍涙


の構成。個人的には「キャッチャー・オン・ザ・目白通り」と「ドラゴン・ティアーズ -龍涙」が好きかな。前者は意外なタカシの姿を見ることができることと舞台が目白という部分で土地勘がある人は「おやっ?」と思うことかな。山手線で言えば、池袋の隣りの駅だけど雰囲気は全然違うんだよね、目白って。きっとこのシリーズのファンならキャッチャー・タカシを一目見てみたい、と思うはず。


後者の「ドラゴン・ティアーズ -龍涙」は前作『非正規レジスタンス』の延長線上のテーマでもあり、エンターテイメント作品に社会的メッセージを盛り込んだ力作だと思う。この作品は読みながら頭の中ではかなり映像化(もちろんTVじゃなく、映画で)されていたんだよね。でね、もし映像化された時のエンディングの曲はこれ。



多分、鳥肌が立って椅子から立ち上がれないと思う。


 


あと、『池袋ウエストゲートパーク』にはかなり粋な言い回しが所々にあって、それも魅力の一つになっている。



あんたもなんだか不思議に思わないか。海の底では小魚が音もなく捕食され、その数百メートルうえの海面を光り輝く豪華客船がすすんでいく。船のうえでは毎夜のパーティ。エコに関心の深い洗練された趣味のいい男女の数々。女たちのドレス一枚の代金で、海底の魚たちは楽に半年は生活できるのだ。(家なき者のパレード)



「だからさ、社会にとっては、サブプライムローンもホームレスの人たちも、一箇所に集めておくと人目につくし危険なんだよ。それでばらばらにして、薄く広くばらまく。そういう方法で、問題を全部なかったことにしてしまうんだ。」(家なき者のパレード)


「この文章ってどう思う?」って就活の面談で聞かれたら、さて何人がまともな回答ができるのだろう。日経新聞よりも『池袋ウエストゲートパーク』を読んでおいた方がいいかも。