原作とは別の視点から表現すると・・・ 『しあわせの隠れ場所』




"しあわせの隠れ場所 [DVD]" (ジョン・リー・ハンコック)


『ブラインド・サイド』の映像ということで遅ればせながら『しあわせの隠れ場所』を観た。作品としてはよく仕上がっているし、サンドラ・ブロックの演技も評価通りだった。けど、原作の良さが表現しきれていなくてちょっと残念な気持ちもある。指折りのスラム街で生まれ育ったマイケル・オアーが裕福な家族と出会い、新しい家族の一員としてサクセスストーリーを歩む、という実話は忠実に描かれているし、その映像は多くの人を感動させると思う。でも、原作ではかなり部分でアメフトの歴史や構造の説明にページを割いている。つまり、アメフトの世界で価値が変化したからマイケル・オアーが生まれたと言ってもいいことをかなり切り捨てている。実際に序盤で「ブラインド・サイド(レフトタックル)」がアメフトで重要なポジションになった、という映像表現はあるものの、その部分の繋がりが後にはない。もしアメフト界にそのような変化がなくてもテューイ家の人々はマイケル・オアーを新しい家族として迎え入れたかも知れないが、今日のように日の目を見ることは無かったろう。




"ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟" (マイケル ルイス)


 


この映画の中で『家族愛』を表現したかったのであれば、「なぜ独りぼっちのマイケルにSJは興味を持ったのか」、「どんな風にして友達になっていったのか」、サンドラ・ブロック扮するリー・アンの気持ちの変化にフォーカスするなど盛り込まなければいけない部分がいくつかあると思う。映像はきれいだし、サンドラ・ブロックだけではなく、SJ役のジェイ・ヘッドが見事な演技をしているからこそもったいない気がする。これも原作を先に読んでいなければこうは思わなかったんだろう。


 


映画ってほぼ2時間前後に収めないといけない制約があるから、考えている以上に切り捨てないといけないことを多いんだろう。と考えると、テーマを絞り、そのテーマを伝えるためのエピソードは残すにしてもそれ以外の付随的な要素はかなり大胆にカットする必要。


この発想とは逆に却って印象深く残ったシーンもある。マイケルがアメフトの練習でなかなかうまくできない時にリー・アンがグランドの中に乗り込んでいって『あなたはQBを守ることが仕事、そしてTBを守ることが仕事』と説明するシーン。言葉は相手に伝わり、理解されなければ意味が無いので理解できる言葉で伝える。これはスポーツに限らず大事なことで、よくこのシーンを削らずに残したな、と感心。


 


映画としては非常に高いレベルで仕上がっている作品なのでたくさんの人に観てもらいたい。先に原作を読んでしまったことで期待値が高すぎた感じだろうか。これからの人は映像→原作だと二重に満足できるのではないかな。


 


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