自分の甘さを再認識させてくれる 「借金取りの王子」 垣根涼介

借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)

借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)

借金取りの王子』は既に単行本で読んでいたので内容はいずれも知っている。不思議の思うかも知れないけど、僕は好きな作家さんの作品は単行本で読んだ作品でも文庫で読むことが多い。理由はいくつかあるけど、中でも楽しみにしているのは文庫にはある『解説』。今回もそうだが、評論家や同業の作家の解説はあまり面白くない。どうしても『よいしょ』的な書き方になるし、視点が同じであるため評論的になりがちである。何かの縁でお願いした同業者以外の方の解説は視点が違うし、興味の対象も違うので『解説』そのものも作品のような価値を持つ。

そもそも単行本が出版されてから文庫が出るまでにはかなりの時間があるので、内容そのものもうろ覚え状態になっていることが多い。特にミステリーは単行本→ノベルス→文庫本になるケースもあり、文庫化されるまで数年のブランクがあるものもある。商売的には分からなくもないが、ほとんどの作品は『旬』というものもあるのであまり時間を掛けずに出して欲しいものである。

さて本作品はリストラ請負会社「ヒューマンリアクト」の村上真介が活躍するシリーズの第2弾でサブタイトルにもなっている「君たちに明日はない」の続編である。前作は真介のバックグランドを描くようなエピソードを繋いでいったのに比べ、今回はそれぞれのエピソードが独立して展開される。その中で真介と、一緒に暮らす陽子の関係を表現していく形をとっている。
タイトルにもなっている『借金取りの王子』は消費者金融を舞台にした話で、知らなくても過酷な業界と想像することは難しくないが、中でも店長に浴せられる言葉の暴力のシーンは「ずしり」とくる。垣根氏のうまさは、この辺の描写のリアリティとそこで動く心理描写が素晴らしいことだと思っている。実際読んでみると同感するシーンが多く、表現も決して難しいとは感じない。しかし、自分で同じように書こうとすると書けないものである。プロというのは、『感じること』と『普通に表現すること』の両方を持ち合わせていないと成り立たないのだろう。

まだまだ謎に包まれている社長の高橋は魅力的なキャラである。是非、高橋を中心にした作品が生まれることを期待したい。
前作の『君たちに明日はない』がNHKドラマとして映像化されるらしい。

土曜ドラマ「君たちに明日はない
【放送】2010/1/16-(全6回)
毎週土曜日 総合 21:00-21:54
毎週土曜日 BShi18:00-18:54
【原作】垣根涼介君たちに明日はない」「借金取りの王子
【脚本】宅間孝行

君たちに明日はない』が出版された時には「リストラ請負会社」というものも「あるかも知れない」という感じだったが、今ではかなり現実味のある話である。こういう部分でも垣根涼介という作家は希有な存在である。