毎日使うからこそ『良いもの』という考え方

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たまには仕事絡みのことも

今年の初めぐらいからお仕事でお手伝いしている『MODERE』。Googleで検索するといっぱいネガティブな記事が出てきます。この会社には2つの顔があって、ネットワークビジネスとカスタマーダイレクトの2つのビジネスモデルが存在します。ネットワークビジネスと言っても法的に問題があるわけではないんだけど、ビジネスとしてやっている人の一部には無理をしちゃう人もいるので結果的にはネガティブな部分が注目されてしまうのでしょう。

僕がお手伝いしているのはカスタマーダイレクトのビジネスの立ち上げ部分。単純にECサイトの立ち上げというよりも、顧客とのコミュニケーション(よくあるコミュニケーション=宣伝ということではなく)をどんな形で進めていけば顧客に評価され、ビジネスが伸びていくかをクライアント先の人たちと模索しながら構築しています。ゼロから始めているので今の段階ではまだまだな部分がたくさんありますが、アイデアを煮詰めて、実際にやってみて、反応を見ながらブラッシュアップしていくのはどんなビジネスでも同じなので少しずつであっても良くなっていくと思います。

『良いもの』ってなに?

MODERE_BodyBar

『良いもの』って人それぞれだと思いますが、ちょうど自分にとって『良いもの』ってどんなことかな、と考えていた頃にこのお話をいただいたので改めて考えるきっかけにもなりました。

仕事を受ける前にどんな特徴があり、どんな思いがあって商品を作っているのか、という質問をした際に、

肌や身体によくない材料を使わないということはもちろん、使っていて気分がよくなるような商品です。

と言われた気がします(正確ではないけど)。たしか当時言われていたコンセプトが『Everyday Essential』だったような。でも、感覚的には理解したけど、あんまりよくわからなかった。イメージなのかな….という意識で。そこで

何が一番わかりやすい商品ですか?

と聞いたところ、

ボディバーはすごくいいよ

という話だったので、後からボディバーを送ってもらいました。

使ってみてわかった発見

正直言ってこのボディバーを何回か使ってみたところ、これと言って感動はありませんでした。香りはハーブ系の香りでほのか、洗い上がりもスッキリするなあ、ぐらいの感じでした。ちょうど一週間ぐらい使った後ぐらいに出張があり、一応それなりのホテルだったのでホテルのアメニティを使った時に「ああ!」とその違いを実感。シャワーでいくら流してもボディソープが残っている感じがして(しっとり感とは違う残留感に近い感触で、これをしっとり感と思っていたのだろう)、段々と気持ち悪さがわき上がってくる感じ。毎日使うものだからこそ、むやみに肌に残さない、汚れなどはしっかり落として必要であれば保湿する、ということが頭ではなく身体で理解した瞬間でした。

それからは前向きにこのボディバーを使うようになりました。よくある石鹸置きだと下部分がなんとなくヌルヌルになるので、なにか便利なものがないかと思っていたら無印の台の部分がスポンジになっている石鹸置きがあり、今はこのセットが必須アイテムになっています。

 

なかなか一度で伝わる感覚ではないけど、数日使った時に「あれっ」って瞬間がおとずれると思う。これを上手に伝えられるコミュニケーションを設計するのが喫緊の課題だろうか。

www.modere.co.jp

予想以上の出来でした!! 『直感に刺さるプレゼンテーション』 望月正吾


"直感に刺さるプレゼンテーション" (望月 正吾)

プチ誕生秘話

仕事柄、提案書や企画書など広義のプレゼン資料を書くことが多い。またせっかくプレゼン資料を作らない構成も見た目もカッコいいものに仕上げたい、という思いからこれまでプレゼンに関する本は相当量読んできた。しかし、「バイブル」と呼んでもいい本には一度も巡りあわなかった。セミナーのような大勢の前でプレゼンする際のテクニックだったり、PowerPointのTIPS集だったり、はたまたデザインにこだわり過ぎてビジネスの現場には不釣り合いな内容だったりと....。理由は単純で、本当に組織の中で企画の仕事を続けてきて、更にデザインもツールのテクニックも押さえていないと組織の中で使える提案書の本にはならない。

そんな風に思っていたので、タカラで長年企画の仕事をしてしてきて、プレゼンに特化したビジネスを始めたこの本の著者である望月さんに「望月さんがいつも話してくれるポイントってビジネスの現場ですごく大事なのに、その辺を押さえた本って無いんだよねえ。いっそのこと本にしてみない?」と気楽な気持ちで話したのがちょうど1年ぐらい前だった。

一方で、友人でもあり辣腕の編集者である技術評論社の傳さんに「(自分で書くわけでもないのに)今までにない、ビジネスの現場に通用するプレゼンの本って興味がない?」とヤクザまがいの話をしたらタイミングが良かったのか、望月さんと傳さんのお見合いの運びになり、1年弱の二人三脚の末、この本が生まれました。

振り切った中味

タイトルが『直感に刺さるプレゼンテーション』とキャッチーになっているだけでなく、各章の構成も非常にユニークな構成になっています。

  • 第1章 感情に訴えるための基本
  • 第2章 脳が喜ぶビジュアル表現7つの原則
  • 第3章 心を揺さぶるストーリーの組み立て方
  • 第4章 印象を自在に操るスライドの秘密
  • 第5章 人を動かす話し方のポイント
  • 第6章 イメージを形にするPowerPointの使い方
  • 付録

実は提案書も企画書も、「相手に何かを伝えるための道具」という見方をすれば、相手に対して物理的に伝えるだけではなく、気持ちを乗せて、そして相手の気持ちに変化を与えなければ相手は行動を起こしてくれません。だからこそ、「感情」、「脳」、「心」という単語を使っているのでしょう。まあ、好きな人に気持ちを伝えるのと一緒ですよね。

具体的な部分も説明しないとどんな感じの内容なのかわからないですね。第1章に「図解は論理的、イメージは感情的」という部分があります。そのページのサブコピーには「図解では感情は動かせない」と書かれています。おお、確かに図解というのは表であったり、グラフであったり、フローチャートのようなものだったりしますが、論理的に説明するものではあるけどちゃんと意識して使っていなかったなあ、と改めて気付かせてくれました。そして、その違いは図解で説明されています(笑)

本書のストロングポイント

とにかく読んでいて楽しい、というのがこの本の最大の魅力でしょう。かなり写真を多用した作りになっているけど、わかりやすいだけではなく、自分でプレゼン資料を作る時の参考例にそのまま使える(写真そのものではなく、切り口というか考え方として)。ちょっと面白そうだなと思った人はまずは店頭で手にとって中身を見て欲しい。これまでのプレゼンの本と全く違う印象を受けると思います。

どんな人に、どう利用してほしいか

この本は広い意味でテクニック集でしょう。ただし、"真似すればいい"というものではなくて、一度目は自分の中に"納得感"を芽生えさせるために読み物として読んだ方がいいでしょう。だから、若手の企画担当者でもベテランのマーケターでも、いやいや営業職でも管理部門の人でもきっと役立つはずです。役立つポイントは違うかも知れませんが。

そして、読み終わった後は自席のデスクの上にリファレンスとして置いて、ヒントが欲しい時、チェックをしたい時に読み返して使う。そんな使い方ができる本なので一家に一冊ではなく、一人一冊がちょうどいいですね!

最後にもう一つ。どう企画をまとめて、プレゼン資料したらいいのかイマイチわかっていない、という人はまず付録を使ってみてください。付録が何かは読んでからのお楽しみということで。

 

望月さん、傳さんの二人三脚の結果は僕の予想以上でした。さすがです。

標準偏差…と煙に巻かれないために 『「それ、根拠あるの?」と言わせない データ・統計分析ができる本』 柏木吉基




"「それ、根拠あるの?」と言わせない データ・統計分析ができる本" (柏木 吉基)


 

ビッグデータやデータサイエンティストというキーワードには食傷気味な今日この頃なんですが、使える分析本が登場しました。前作の「明日からつかえるシンプル統計学」もかなりの出来でしたが、今回は更に分析に重心を置いた作りになっています。前作は表がExcel裏が統計、今回は表が分析(+統計)裏がExcelといったところでしょうか。細かい部分は後でコメントしますが、

  • 誰にでも理解できる言葉遣い
  • すべての人が身近にあるツールでの実践方法


に徹していることが柏木さんの著書の特徴ですね。本書もσ2(二乗)なんて言葉は出てきません。それはひとえにビジネスマンがビジネスマンのための本という立ち位置を貫いているからでしょう。


 

では少しずつ中身を紹介しましょう。

まずこの本のキモは序章と第一章にあります。序章の最初に「仮説アプローチ」と題して、分析の前に『仮説が重要』と説いています。全くもって同感で、仮説を確認する作業が分析なんだよね(それがすべてじゃないけど)。柏木さんの図を利用させてもらうと、

目的=>仮説=>手段


となります。うん、これが理解できたら80%ぐらいはクリアしている感じです。これが明確になっていれば「分析の沼」で迷うことはないです。逆にいうと、これが最初にしっかり定義できていないと回り道やら脈がないところの深掘りやらでいっぱい苦労します(実感していますから)。iPhoneのホームボタンと一緒で、元に戻るための大事なボタンですね。


 


第一章では「分析の視点」が大事だよ、と教えてくれています。これも序章の部分に繋がってくるんだけど、データのどの部分を使うか、分析対象をどうするかに関わってくる。月次の前年対比をしたければ13ヶ月分のデータがあればいいわけだし、アイテム別に調べたければ集計されたデータではなく元となるデータを使った方が手戻りが少ない。つまり、目的が明確であれば分析対象の期間や粒度がはっきりするのでゴールまで最短距離でいけるわけ。


あとですね....第六章が素晴らしい。分析って「こんなんでました!」ってためにするわけじゃないので、分析と見せ方/伝え方は分けて考えるべき。「バカでかいクロス集計表」や「細かいグラフ」を見たいわけじゃなく、その結果(それが何を物語っているか)を知りたいために分析しているわけだからね。でも、分析が終わったら「終了!」ということが世の中にはたくさんあるし、Excelのグラフをパワポに貼ってプレゼン資料だ、と見せられても困るんですよね。そうじゃないよ、という例もちゃんと載っているのでそこまで参考にした方がいいですね。


 


版元は違うけど、柏木さんの前作が良書だったのでいろんな人におすすめしてきましたが、先に書いたように「明日からつかえるシンプル統計学」と本書は表裏なので両方を持っていた方がいいですね。




"明日からつかえるシンプル統計学 〜身近な事例でするする身につく最低限の知識とコツ (現場の統計学)" (柏木 吉基)

人生観というよりも哲学 『身を捨ててこそ 新・病葉流れて』 白川道




"身を捨ててこそ 新・病葉流れて (幻冬舎文庫)" (白川 道)


白川道の『病葉流れて』は著者の自伝的小説である。これまで三冊の『病葉流れて』が上梓され、その次の時代を『新・病葉流れて』というシリーズでスタートし、本書はその一冊目にあたる。最初の『病葉流れて』以外はシリーズ名がサブタイトルになっており、本書のタイトルも『身を捨ててこそ』である。おそらく「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」から付けたタイトルであろう。


主人公の梨田雅之はこの『病葉流れて』だけではなく、白川道のデビュー作である『流星たちの宴』の主人公でもある。この『流星たちの宴』は大好きな作品で、過去に六冊購入している。これから初めて白川道の作品を味わうのであれば、先に流星たちの宴』を読んでおいた方が馴染みやすいだろう。




"流星たちの宴 (新潮文庫)" (白川 道)


 


さて本書は梨田が大学を卒業し、大手電機メーカーに就職したものの3ヶ月で辞め、先物取引の世界に足を踏み入れ、ここを抜け出すところからスタートする。そう簡単には足抜けできない世界の中で、顧客を守り、自分自身で相場で儲けるという謀反に痛いしっぺ返しをもらうことになる。しかし、そのお陰で正体不明の隠居・砂押に出会うことになる。もちろん出会いの場所は雀荘で、牌の向こうにお互いの人となりを確認しあう。そんな梨田は砂押を師匠と呼び、梨田の人生を左右するひとりになる。そんな砂押が梨田に語った一言のひとつにこんな言葉ある。


「人間を観るのに場所とか風采とかで判断するんじゃねえ。そんな尺度は捨てるんだ。でねえと、自分にとって大切な人間を見落とちまう」


これまでも梨田の生き方を振り返ると決して見た目で大切にすべき人を選んでいない。しかし、師と仰ぐ砂押が口に出して言った言葉であることが大事なのだろう。理解していることでも、改めて口に出して言われることで気づきとして心に刻まれる。


 


偶然、伊東に赴いた際に地元の鮨屋で翌日の競輪で引退する選手がいることを知る。その選手は梨田の親に近い年齢で、かつて卓を囲んだことがある人物だった。その引退試合に出向き、車券を買う。それも、その選手からの連単と単勝のみ。新聞では無印。結果は一位で入線するも判定で失格する。その時に梨田がこう口にする。



なにも戦わないで四着、五着になるより、戦って一着失格


これは梨田の人生観でもあり、白川道の哲学でもあると思っている。


 


白川道の作品はどれも文章が長いことで知られている。この作品も600ページ以上である(電子書籍なので文庫でのページ数がどれぐらいか分からないが)。でも、読み出したら時間を忘れて読み続けるのであっという間に読み終わるだろう。だからこそ、休みの前の日に読み始めた方がいいですよ。


 


*この作品は電子書籍で読みました。

地味ながらも良い作品だ 『警視庁心理捜査官』 黒崎視音




"警視庁心理捜査官 上 (徳間文庫)" (黒崎 視音)


 


大晦日から上下巻を一気に読んだ。好き嫌いが分かれそうな文章だが、僕には満足度の高い作品だった。あちこちのレビューを見ると、「ストロベリーナイト」と似ているストーリー」という表現が散見されるが、「ストロベリーナイトの方が後だろうが...」と突っ込みを入れたくなる。表面的にはストロベリーナイトのような印象を受けるが、それよりも東野圭吾の加賀恭一郎シリーズの方がアプローチとしては近い気がする。心の揺れを文章にし、それを積み上げていく。加賀恭一郎シリーズよりも映像化しにくい、逆に小説だから味わえる文章に仕上がっているからこそこの作品の魅力なのだろう。


 


主人公は警視庁捜査一課に配属される特別捜査官。社会が複雑化する中で必要になったある分野の専門家でもある。主人公の吉村爽子は心理捜査官と呼ばれる巡査部長。いわゆるプロファイリングの手法を用いて事実のすき間を埋め、犯人像を具体的にイメージする。


通常の捜査員は情報の収集を勘と経験で行い、鑑識は物証という事実を蓄積する。心理捜査官は被害者と同化し(時には死体と)、同化することで共鳴する心の声を聴き想像力にバトンを渡す。そこからは事実と照らし合わせながらイメージの検証を行っていく。思い込みという主観が先行すれば間違った答えを導き出しかねないので、多くの捜査員からは煙たい存在でもある。だからこそ、知識や能力以上に強い意志が必要になる。ただし、常に客観性も必要であり、相反する2つの思考を行き来しながら答えを導かなければならない辛い立場でもある。


 




"警視庁心理捜査官 下 (徳間文庫)" (黒崎 視音)


この作品のおもしろさは「想像と検証」という地味な作業を真摯に描き続けながら、警察組織の詳細な描写をすることで組織の壁や政治的思考も同時に表現して、この2つを絡ませている点だろう。多くの警察小説でも当然ながら警察組織の描写は自然と多くなる。ただし、主人公はそれなりの立場(警視や警部(補))なケースがほとんどである。しかし、この「警視庁心理捜査官」では特別捜査官という特殊性を利用しながらも巡査部長というポジションで、組織捜査をメインに事件解決する流れになっていることがポイントでもある。そのため、人によっては冗長に感じるだろう。ちょうど僕の仕事は近しいものがあって、事実の渦の中から必要な事実とノイズを振り分けるためには生活者として同化する必要があり、その上でイメージを膨らます。その後は逆に地道な検証作業が続く、と、まるで爽子とプロセスが一緒なのである。


 


トリックや推理とは無縁の警察小説をここまでの量で完成させているこの作品はかなりのものだろう。それぞれの心の揺れを描きながら小説に仕上げている黒崎視音はちょっと追いかけてみたい作家のラインナップに入れよう。何もないところから分析して答えを導き出すことが好きな人には心地いい小説ですよ。


 


*この作品は電子書籍で読みました。