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事実は小説より奇なり、とはこのことか 『マネーロンダリング入門』 橘玲


"マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)" (橘 玲)


僕が最初にマネーロンダリングという言葉に触れたのは1994年だった。当時の仕事で会社で最初の支店(仙台)を作る準備をしていて、それと同時に直営の美容室やエステサロン開設を進めていた。日々の入出金の管理のために仙台の銀行に口座を作る手続きに行った時である。僕の住所は千葉、会社は東京、仙台の店舗は未だオープンしておらず、この状態では屋号付き個人の口座をなかなか開いてもらうことが出来なかった。法人で口座を開くことは出来たんだけど、印鑑やら書類やら面倒な手続きがあり、まして出張ベースで行き来して時期でもあるので時間的な制約から法人口座の開設は避けていた。


銀行の窓口では『マネーロンダリング』の可能性がある口座開設はできない、と説明を受け、当然そういう目的で口座開設を依頼したわけではないんだけど、悪意があれば可能だな、と妙に納得していた自分がいた。とは言いながらも、まだまだ銀行間の認識のレベルは甘く、何行かは普通に口座を開設することが出来た。


 


マネーロンダリングというと、「暴力団資金源」や「政治資金」などのイメージが強いが本書を読むと政治、宗教などを含めて大規模な国際間取引で行われているのがよく分かる。特に概念で書かれているのではなく、直近の話題なったものから過去の歴史を紐解いたものまで実例ベースで書かれているため、単に分かりやすいだけではなく、それぞれの立場や役回りなどを含めて理解しやすい。表面的な取引の流れだけで留めず、関わった人物の過去や当時の立ち位置を含めて展開されているのは綿密な取材力や調査力、インタビューの賜物だろう。マネーロンダリングを一発で理解したい、という人には正に最高の一冊。


 


本書を読んでいて、考えさせられた部分はマネーロンダリングは悪意がある人物が絵を描いて実行する行為であることは事実であるが、知らない間にその絵の登場人物にさせられ、気付いた時には悪のワークフローから抜け出せない状態になるリスクがあることである。決して、私腹を肥やしたいという邪な気持ちではなく、ある意味では真面目に自分のミッションを遂行する一環で罠に陥るケースである。後から全体を見れば簡単に詐欺と見抜ける内容なんだけど、そう見せないように陥れていく様は『気付いたら・・・』という形になる。


またマネーロンダリングを実現する上で必要な銀行、あるいは国際間の処理に関しても詳しく書かれており、金融取引の知識をキャッチアップする上でも非常に役立つ。ここを理解すると、日本の銀行で外貨預金をし、日本円に戻す時に時間が掛かることも簡単に理解することができる。


ドルがなぜ基軸通貨なのか、米国とアルカイダの繋がり、宗教と資金源などスパイ小説さながらの事実がこれでもか! というぐらい盛り込まれている。マネーロンダリングの興味がなくても、すべての人が楽しめる(ちょっと不謹慎かも知れないが)という観点でも極上の作品であることは間違いない。