音楽でコミュニケーションする 『上原ひろみ サマーレインの彼方』 神舘和典


"上原ひろみ サマーレインの彼方 (幻冬舎文庫)" (神舘 和典, 白土 恭子)


上原ひろみを知ったのは単行本の『ハゲタカ』を読んだ時かな。だから、2004年とか2005年ぐらいだろうか。主人公の鷲津雅彦のクルマ、ポルシェGT3で上原ひろみの『XYZ』がかかる。これを読んで、アルバム『アナザー・マインド』を聴いてファンになった。ジャズとも言えず、フュージョンでもなく、敢えて音楽のジャンルで括らない方がいいアーティストだと思う。


 

本書はそんな上原ひろみのある一時期にフォーカスして書かれたものである。正直、文章はあまり良いとは言えない。失礼を承知で書くと、思い入れが強すぎて途中から「もう少し冷静に書いてもいいんじゃない」と思ってしまうところがある。一方、上原ひろみの凄さを余すところ無く描こうとしている気持ちも分からなくもない。上原ひろみを知れば知るほど、今までの日本アーティストとは違う人に感じる。音楽に対する考え方、小さい頃からの行動などどれを取っても誰かと比較することに意味がなくなることがよく分かる。本当に音楽が好きで、音楽で周りの人を喜ばせることが好き、というのがこの本を読んでいても伝わってくる。


"アナザー・マインド" (上原ひろみ)


 

ほほう、と思った一つに、彼女はレコーディングする以前のステージで新しい曲を何度も演奏し、熟成させてからレコーディングするという人らしい。僕ら聞き手から見れば本当に傑作の状態でCDなりを聴けるのでありがたいことだけど、この考え方は考えてできることではないだろうな、と思っている。きっと彼女のホスピタリティが自然とそうしてしまったんだと思う。実際にレコーディングそのものも各トラックを録音してミックスする形ではなく、同時にそれぞれの楽器を演奏する形でステージと同じ方法らしい。更にメンバーもステージと一緒なので、数多くのステージをこなし、メンバー全員で形になったところでレコーディングするばレベルの高い作品ができないわけがないだろう。だから、どのアルバムを聴いても本当によくできたアルバムに仕上がっている。上原ひろみを知らない人は一度聴いてみて、何か感じるものがあったら本書を読んでみるとまた違って聞こえてくるかも知れない。