小説から学ぶ、今の時代に必要なスキル


僕は好きな作家の作品は何度も読み直す習性があって、今は北森鴻氏の『蓮丈那智』シリーズを読み返している。過去にもこのブログで書いているけど、『凶笑面』を読みながら新たに「そうそう」と思ったので書くことにした。



関連:


[Book]「凶笑面-蓮丈那智フィールドファイル1」 北森鴻 2008-03-05


[Book]「触身仏 蓮丈那智フィールドファイルII」 北森鴻 2008-04-22


この『凶笑面』は蓮丈那智』シリーズに第1作目であり、冒頭は助手の内藤三國の視点で始まる。特に最初の最初に蓮丈那智が学生に出した試験問題が記載されている。



『東経137度30分 北緯34度40分の付近の海上に南北5キロメートル 東西1キロメートルほどの小島を仮定する。住民の80名ほどのA集落と70名ほどのB集落に、このたび民俗調査を試みた。その結果非常に興味深い事実を得ることができた。*この島には渡来神伝説、および浦島伝説に類する伝承が一切ない。このことについて可能な限りの仮説をあげよ』


強烈な試験問題であるが、今の時代に必要なスキルはこのスキルに違いない。今、目の前にある情報と自分自身の知識から想像力を働かせ、可能な限りの仮説を出し、どのような方法で仮説を立証あるいは事実で仮説を証明することができるかをまず考えること。『やってみなければ分からない』は時間と予算を考えない前時代的なアプローチであり、仮説だけで証明できないものか一般的に『勘』と呼ぶ。『勘』は時として成功することもあるが、裏付けがないために外れることも大いにあり、ビジネス上では意味をなさない。



民俗学とは想像力の学問です。この発想には根拠がないだとか、こうした考え方は幼稚だとか考える前に、まずは自分の仮説を証明することを考えること。そして証明に必要なのは、一にも二にもフィールドワーク以外にはない」


これは蓮丈那智の口癖でもあるが、北森の考え方そのものだろう。記憶力勝負の勉強は学生時代は通用したかも知れないが、ビジネスの世界では記憶力や知識は道具の一つでしかない。道具が無ければ始まらないが、道具を持っていても使い方を知らなければ意味がない。


"凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮文庫)" (北森 鴻)


別のページにはこんな一節がある。



記憶型の知識を勉学のすべてと信じて疑わない学生といったが、中にはそうでもない学生もいる。いわゆる理系思考のできる学生だが、そうした学生はまた、えてして方法論の確立をひどく重要視する。現象に対しても、思考に対しても明確な方法論のなかでしか自由度をもてないのである。


つまりロジカルな思考自由な想像力、そして行動力が無ければ成り立たない、といっている。マクドナルドにしても、ユニクロにしても成長し続けている企業がある。両社とも『価格が安い』から売れているのではなく、想像して検証しながら行動しているから結果に結びついているのある。中身の薄いビジネス書を読むよりも、完成度の高い小説から学ぶことが多いのは同じ理由かも知れない。