ベネッセの凄さとユニーク性(続き)

では、前回の続きを。
教育分野に於いて『継続』商品をビジネス基盤にしているベネッセが実はユニークなビジネスモデルであることは理解できると思う。しかし、ベネッセの強みは教育分野だけではない。『たまひよ』で知られる妊娠している、あるいは乳児を持つママの多くを取り込んでいる。都市部だけではなく、全国的に核家族化が進んだ結果として妊娠期〜初級ママには適切な情報が必要であり、そのニーズは大きい。また物理的に行動範囲が制限される時期でもあるため、情報と通販を組み合わせたベネッセのビジネスは非常にフィットする。実はここで「ママ」を獲得できるとコアビジネスである教育事業一気通貫に顧客化することができる。
商品ラインナップだけを見るとよく似ているように見えるのがリクルートである。リクルートは「卒業」をトリガーに、就職、転職、結婚、住宅、車といった人生に於けるライフイベントをサポートする情報ビジネスをしている点では近しい存在である。が、リクルートの場合には「イベント」であるため、『顧客の継続性』を維持することは事実上難しい。例えば、「就職」というイベントでリクルートに触れても「就職」が完了してしまうと次のライフイベントまで一定の距離を持った顧客ではなくなる。またリクルートの場合にはダイレクトマーケティングではなく、ビジネスとしての商品は「広告」であり、マッチングビジネスで収益を上げる構造のため利用者は顧客とは呼べない。
ベネッセは教育事業の顧客である子供の存在以前から顧客を掴む構造を持っていることになる。更にこの部分を強化すべく、『パピコレ』というそれ以前の層を取り込むビジネス分野にも進出し始めた。これも基本は『継続』商品であるため、時間軸でのカバー範囲は更に広がったわけである。また反対方向の時間軸カバーも用意されていて、「高級有料老人ホーム」という介護ビジネスも手懸けている。これは僕のイメージの話になってしまうが、過去に教育分野で接触があった「ベネッセ」に対するブランドイメージやロイヤリティを考えると子供たちが巣立った後の拠点としてベネッセを選択することはかなり優位であると想像される。つまりコアビジネスでのコミュニケーションを最大限に利用可能な範囲にビジネスのベクトルを延ばしている。これも『継続』というビジネスによる賜物である。
時間軸で見ればカバー範囲の広い、『継続』商品をラインナップさせ、ダイレクトに顧客とのタッチポイントを持つビジネスを展開しているベネッセであるが、細かく見ればまだまだ穴はたくさんある。商品の層が厚いところもあれば、薄いところもあり、薄いところで一時的には顧客で無くなる可能性も大いにある。実際に進研ゼミでもなく、東京個別指導学院でもない、有名塾や予備校に行けば、その時期はベネッセとの接点はなくなる。ただし、過去に何らかの接点を持ったことを財産として顧客と付き合っていく考えがあれば、これ以上の財産はないだろう。ダイレクトマーケティングをしている会社やマーケターはベネッセから学ぶべきことも多いだろうし、ベネッセ自身の課題は世の中に無いものを新しく考えながら、そしてマーケットの創造もしながらビジネスを進めなければならないことだろう。まあ非常にユニーク、かつ強みを持った会社であることには変わりがない。