標準偏差…と煙に巻かれないために 『「それ、根拠あるの?」と言わせない データ・統計分析ができる本』 柏木吉基




"「それ、根拠あるの?」と言わせない データ・統計分析ができる本" (柏木 吉基)


 

ビッグデータやデータサイエンティストというキーワードには食傷気味な今日この頃なんですが、使える分析本が登場しました。前作の「明日からつかえるシンプル統計学」もかなりの出来でしたが、今回は更に分析に重心を置いた作りになっています。前作は表がExcel裏が統計、今回は表が分析(+統計)裏がExcelといったところでしょうか。細かい部分は後でコメントしますが、

  • 誰にでも理解できる言葉遣い
  • すべての人が身近にあるツールでの実践方法


に徹していることが柏木さんの著書の特徴ですね。本書もσ2(二乗)なんて言葉は出てきません。それはひとえにビジネスマンがビジネスマンのための本という立ち位置を貫いているからでしょう。


 

では少しずつ中身を紹介しましょう。

まずこの本のキモは序章と第一章にあります。序章の最初に「仮説アプローチ」と題して、分析の前に『仮説が重要』と説いています。全くもって同感で、仮説を確認する作業が分析なんだよね(それがすべてじゃないけど)。柏木さんの図を利用させてもらうと、

目的=>仮説=>手段


となります。うん、これが理解できたら80%ぐらいはクリアしている感じです。これが明確になっていれば「分析の沼」で迷うことはないです。逆にいうと、これが最初にしっかり定義できていないと回り道やら脈がないところの深掘りやらでいっぱい苦労します(実感していますから)。iPhoneのホームボタンと一緒で、元に戻るための大事なボタンですね。


 


第一章では「分析の視点」が大事だよ、と教えてくれています。これも序章の部分に繋がってくるんだけど、データのどの部分を使うか、分析対象をどうするかに関わってくる。月次の前年対比をしたければ13ヶ月分のデータがあればいいわけだし、アイテム別に調べたければ集計されたデータではなく元となるデータを使った方が手戻りが少ない。つまり、目的が明確であれば分析対象の期間や粒度がはっきりするのでゴールまで最短距離でいけるわけ。


あとですね....第六章が素晴らしい。分析って「こんなんでました!」ってためにするわけじゃないので、分析と見せ方/伝え方は分けて考えるべき。「バカでかいクロス集計表」や「細かいグラフ」を見たいわけじゃなく、その結果(それが何を物語っているか)を知りたいために分析しているわけだからね。でも、分析が終わったら「終了!」ということが世の中にはたくさんあるし、Excelのグラフをパワポに貼ってプレゼン資料だ、と見せられても困るんですよね。そうじゃないよ、という例もちゃんと載っているのでそこまで参考にした方がいいですね。


 


版元は違うけど、柏木さんの前作が良書だったのでいろんな人におすすめしてきましたが、先に書いたように「明日からつかえるシンプル統計学」と本書は表裏なので両方を持っていた方がいいですね。




"明日からつかえるシンプル統計学 〜身近な事例でするする身につく最低限の知識とコツ (現場の統計学)" (柏木 吉基)