人生観というよりも哲学 『身を捨ててこそ 新・病葉流れて』 白川道




"身を捨ててこそ 新・病葉流れて (幻冬舎文庫)" (白川 道)


白川道の『病葉流れて』は著者の自伝的小説である。これまで三冊の『病葉流れて』が上梓され、その次の時代を『新・病葉流れて』というシリーズでスタートし、本書はその一冊目にあたる。最初の『病葉流れて』以外はシリーズ名がサブタイトルになっており、本書のタイトルも『身を捨ててこそ』である。おそらく「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」から付けたタイトルであろう。


主人公の梨田雅之はこの『病葉流れて』だけではなく、白川道のデビュー作である『流星たちの宴』の主人公でもある。この『流星たちの宴』は大好きな作品で、過去に六冊購入している。これから初めて白川道の作品を味わうのであれば、先に流星たちの宴』を読んでおいた方が馴染みやすいだろう。




"流星たちの宴 (新潮文庫)" (白川 道)


 


さて本書は梨田が大学を卒業し、大手電機メーカーに就職したものの3ヶ月で辞め、先物取引の世界に足を踏み入れ、ここを抜け出すところからスタートする。そう簡単には足抜けできない世界の中で、顧客を守り、自分自身で相場で儲けるという謀反に痛いしっぺ返しをもらうことになる。しかし、そのお陰で正体不明の隠居・砂押に出会うことになる。もちろん出会いの場所は雀荘で、牌の向こうにお互いの人となりを確認しあう。そんな梨田は砂押を師匠と呼び、梨田の人生を左右するひとりになる。そんな砂押が梨田に語った一言のひとつにこんな言葉ある。


「人間を観るのに場所とか風采とかで判断するんじゃねえ。そんな尺度は捨てるんだ。でねえと、自分にとって大切な人間を見落とちまう」


これまでも梨田の生き方を振り返ると決して見た目で大切にすべき人を選んでいない。しかし、師と仰ぐ砂押が口に出して言った言葉であることが大事なのだろう。理解していることでも、改めて口に出して言われることで気づきとして心に刻まれる。


 


偶然、伊東に赴いた際に地元の鮨屋で翌日の競輪で引退する選手がいることを知る。その選手は梨田の親に近い年齢で、かつて卓を囲んだことがある人物だった。その引退試合に出向き、車券を買う。それも、その選手からの連単と単勝のみ。新聞では無印。結果は一位で入線するも判定で失格する。その時に梨田がこう口にする。



なにも戦わないで四着、五着になるより、戦って一着失格


これは梨田の人生観でもあり、白川道の哲学でもあると思っている。


 


白川道の作品はどれも文章が長いことで知られている。この作品も600ページ以上である(電子書籍なので文庫でのページ数がどれぐらいか分からないが)。でも、読み出したら時間を忘れて読み続けるのであっという間に読み終わるだろう。だからこそ、休みの前の日に読み始めた方がいいですよ。


 


*この作品は電子書籍で読みました。