本当に激安がいいのか、って考えさせられる 『1円家電のカラクリ0円・iPhoneの正体―デフレ社会究極のサバイバル学』 坂口孝則




"1円家電のカラクリ0円・iPhoneの正体―デフレ社会究極のサバイバル学 (幻冬舎新書)" (坂口 孝則)


『最初の取引だから特別価格で・・・』ここ数年ずっと違和感を感じた台詞なんだよね。特別価格=ほぼ利益がない、あるいは今回は利益が無くても・・・というニュアンスがあるけど、本当に削った分の利益を回収できるシーンはあるんだろうか。営業の立場で過去に数えられないくらいの見積書書いてきたけど、交渉途中で違和感を感じた相手との取引で(特にお金に絡むところで)こちら側が折れ、その後、利益も確保できるようになって、かつ良好な関係で維持できたケースは記憶の中にない。多分、交渉相手との間で何かしらの共有できるその後のビジョンが見えないときっとうまくいくことはないんだろうなあ、と経験的に感じている。


 


そんな感覚的には理解していることを著者の坂口さんは鋭く、そして面白く書かれている。タイトルは多少キャッチーなものになっているけど、新書のボリュームの中では(ある意味、制約条件でもあるので)まとまっているし、同じ話を繰りかえしてページ数を稼いでいるような類の作品ではない。売る側買う側という商売の範囲だけではなく、かつて無かった1円や0円で販売するビジネスが社会の中でどのように影響を与えているか、そして家計や労働環境への影響まで平易な言葉で書かれているので年齢や立場に関係なく楽しめる(あるいは勉強になる)と思う。


 


本書の内容とは違うけど、元々、国際線の飛行機やホテルって不思議なビジネスだなあ、って思っていたんだよね。リストプライスはあるものの、ほとんどは形だけのもので某かの割引価格で利用している。その割引価格もかなり幅があって、それでも受けるサービスは同一クラスであれば変わらない。エコノミーで「私は定価で乗っているんだからサービスに差をつけろ!」ということはない。もしかしたら、下のクラスの人の方が上のクラスの人よりも多くの支払いをしている可能性もある。それはコストのうち、『固定費』が大きい業界だからこそ発想。著者の坂口さんは調達・購買のプロだけあって、『固定費』と『変動費』という切り口でビジネスをみている。飛行機やホテルのように利用者が多かろうが少なかろうが、飛行機は飛ぶしホテルも休まない。それはコスト構造を考えた場合、固定費が多くを占めるため売値を下げてでも売上が上がる方がメリットが大きい。これは誰でも分かる。最近はそうではない業界でも普通になっている。答えは・・・本書で。


 


少しだけ内容をピックアップして、ニュアンスだけでも感じてみてください。



赤字販売が成立する条件と現状を述べると、


赤字販売の条件「赤字販売の商品はあっても、他の商品で固定費分を回収すればよかった」→現状「他の商品すらも値引きを余儀なくされ、固定費を回収できなくなった」


ということです。


駅前のドラッグストアを見ていると特売品だけを買ってハシゴしている人を見かけますね。同じカテゴリーのビジネスが同じ市場に同じ戦略で活動するとこうなりますね。


また「フリー」モデルはほんとうに新しいのか、というセクションには化粧品の無料サンプルやデパ地下の「試食」文化をあげ、日本においては決して新しいアプローチではなく、逆に先行していると説いています。


 


本書は今の社会で起きている現象をコスト構造からみて論理を展開しており、具体的で身近な事例をベースに話が進んでいくので非常に分かりやすい。そして一番大事なのは、そんな中で『あなたはどうしますか』という答えを出すこと。