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これが大学の授業のテキストだったら楽しいよね 『亜玖夢博士の経済入門』 橘玲

Book




"亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)" (橘 玲)


この本は2つの側面があり、経済学の初級者〜上級者まで満足させられる貴重な一冊であることは間違いない。この春に晴れて経済学部(社会学部でもいいと思う)の学生になった人には退屈な授業よりも分かりやすく、そして興味を持った部分からより深い知識を得るように努力すればいい。上級者にとっては言葉の意味が理解できても実際に他の人にその意味を具体的な例を用いて説明することはなかなか難しい。たとえば第二講(章ではなく、すべて「講」と書かれている)に登場する『囚人のジレンマ』を全く何も知識がない人にその説明をするのは難しいものだけど、ここに出てくる話を使えば、いや『この本を読むと分かるよ』と一言いえば済む。なんて素晴らしいのだろう。


 


新宿歌舞伎町の怪しい雑居ビルに亜玖夢研究所を構える亜玖夢三太郎博士は海外の著名な大学で十余の学位を取得し、哲学・政治経済学から数学・物理学・生物学に至る諸般の学問を極め、人々を救済せんとして決意をする。街ではチラシが配られ、そこにはこう書かれている。



「相談無料。地獄を見たら亜玖夢へ」


5つのストーリーはこんなタイトルが付けられている。



第一講 行動経済学


第二講 囚人のジレンマ


第三講 ネットワーク経済学


第四講 社会心理学


第五講 ゲーデル不完全性定理


第一講では50万の借金を抱えて相談にくる男が登場する。博士は男に何も聞かずに「借金はいくらか?」と尋ね、男はビックリする。理由は非常に単純で、こんな怪しい場所に出向いてくる人の条件を考え、相手の年齢や性別などを考慮した上で統計学的に判断するとその要因はほぼ「借金」になる、という。そして利益と借金、期間を絡めた質問を繰り返すうちに自然と行動経済学の原理にたどり着く。そしてこの男の悩みを開放する処方は「借金を増やすこと」だと。不思議に思った人は読んでもらえれば納得感を得られるだけではなく、「行動経済学とはなんぞや」も同時に理解することができる。


博士の秘書的な中国人のファンファン、その弟リンレイ、中華料理店のコック陳は絶妙な役回り。歌舞伎町というロケーションと「中国」が持つ意味を考えると他の国の外国人では成り立たない。つまり細かい部分まで用意周到に構成された作品であることは間違いない。


 


本書の価値を証明する意味でも文庫本版での解説が面白い。書いているのは吉本佳生氏、そう『スタバではグランデを買え!』を書いた経済学者。その彼の言葉は、



もしまた非常勤講師などで経済学の入門科目を教えるとしたら、自分が書いた『スタバでは・・・』ではなく、迷わず本書『亜玖夢博士の経済入門』をテキストに指定します(お世辞ではなく、本当にそうします)。


と言わしめている。あ、そうそう「囚人のジレンマ」を本当に理解できるとファーストフード店が価格競争に陥って苦しんだことを簡単に説明できます。本の表紙もシュールだし、GWに楽しみながら勉強するにはもってこいですよ。