今こそその価値が分かる 『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』 ダニエル・ピンク




"フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか" (ダニエル ピンク, 玄田 有史)


実はこの本の存在を知ったのは本当に偶然で、カフェ・ベローチェで提案のアイデアをまとめている時に隣り人が持っていたのを見たことがきっかけだった。それもその人は本を読まずにテーブルに出したまま寝ていたので僕はすかさずタイトルをEvernoteにメモった、という具合に。ちょうど僕自身が会社という組織から離れ、タイトルと同じような形で仕事をし始めた時でもあったので何となくシンクロニシティを感じた。


 


この本は有名な『ハイ・コンセプト』の後に出された本で、著者のダニエル・ピンクが政府の仕事を辞め、彼自身がフリーエージェントとして働きだしたことがきっかけになっている。2002年に出版されているので(書いた時は今からちょうど10年前)、かなり先見性が高いと思う。実際、昨年は『ノマド・ワーキング』という言葉もブームになったぐらい日本でも増えつつある仕事のやり方だろう。




"ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代" (ダニエル・ピンク)


この本の特徴はダニエル・ピンク自身が数多くのフリーエージェントにインタビューして書かれており、文献を引っ張り出しながら持論をまとめているものとは違い、非常に臨場感溢れる印象を受ける。また彼もフリーエージェントとして活動している一人として、その気持ちの強さを文脈から感じることができるのも『ハイ・コンセプト』とは大きく違うところである。


構成は5部19章からなっており、各章毎にポイントというかサマリーが記載されていて親切な設計になっている。後からこのサマリーを読めばどこに何が書かれていたかがすぐ分かり、辞書的に使う場合でもほぼサマリーを読むことで事足りるようになっている。


 



サンフランシスコのヘルスケアコンサルタント、ノッティ・バンボは、こう語った。「本当の力は、独り占めすることではなく、分かち合うことから生まれる。情報を欲しがるだけで、自分はなにも提供しようとしない人間は、相手にされなくなる。対等の人間同士の関係とは、そういうもの。他人の血を吸っているだけだとわかれば、その人間は追放される」。


これは「互恵的な利他主義」という章の中に出てくる一文だけど、今のソーシャルメディアが急成長していることと合わせて考えると感慨深いコメントだと思う。組織の中の出世競争の中では「良い人が馬鹿をみる」ことがあるけど、社会性が高い環境下では逆に利他的でなければ評価されない。


 


どの部分も興味深い内容になっているんだけど、中でも僕の琴線に触れたのは「自分サイズ」のライフスタイルという表現。会社にいる時にうまく言語化できなかったのがこの部分。既製服たくさん出されても既製品である以上制約がある。例えば、上着しか必要がないのに、上下がセットであることが前提で、こちらはイタリアの生地を使っている、こちらは有名なデザイナーがデザインしたもの、と求めているところと違うところで訴求されても意味がない。


またバランスを取る人、ブレンドする人、という表現も納得できた。最近よく耳にする「ワーク・ライフ・バランス」という言葉があるけど、求めているのはバランスを取ることじゃないんだよね。どういうことか興味を持った人は読む価値ありです。


 


フリーエージェントという仕事のスタイルはいいことだけじゃなく、課題もある(今でも)。例にも出されている社会保障制度(米国)。日本でも社会保険を会社員として負担する場合には会社と折半だけど、個人の場合には全額負担だし、ローンやクレジットなど金融与信には不利な部分がある。いつの時代も制度は後から合わせてくる形なのである部分仕方がないかも知れないけど。


 


約10年前の作品とは思えない、逆に今の方が現実感があって馴染みやすいかも知れない。過去に読んだことがある人も改めて読み直してみるとまた新たな発見があるのではないだろうか。


 


話は違うが、あ途中の表現でOSを比喩的に使っているんだけど、これがやがて『モチベーション3.0』に繋がる(今だからわかる)ところを読んだ時はちょっとニヤッとしてしまった。




"モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか" (ダニエル・ピンク)


 


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