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『勝つこと』だけがゴールじゃない 『日曜日のピッチ 父と子のフットボール物語』 ジム・ホワイト




"日曜日のピッチ 父と子のフットボール物語" (ジム・ホワイト)


この本は『本が好き!』から献本いただきました。


 


かつて出張でUKに行き、取引先のメンバーと一緒に夜のパブでサッカー観戦した時に『これじゃいつまでたっても日本は勝てないな』と痛感した。フィジカル面や技術的なことではなく、サッカーが生活の一部で、さらに普通の人の普通の話題がサッカーなのである。


 


本書は自分の子供が所属するサッカーチームの監督として、子を持つ父親として、イングランドのボーイズサッカーを描いた物語である。基本的にはフィクションであり、小説として仕上がっているものの、著者のジム・ホワイトはサッカー専門のスポーツライターであり、また実在の人物やその言葉を巧みに登場させ、フィクションでありながらノンフィクションの色が濃い作品になっている。最初から最後まで主人公(わたし:おそらくジム・ホワイト)の語りで物語が展開していき、少し斜に構えた言い回しが特徴でもある。


元々、サッカーの監督なんて引き受けるつもりがなく、自分の子供が参加しているクラブに顔を出し、当時のクラブのチェアマンの芝居に一杯食わされ、ボーイズサッカークラブの監督を引き受けることになる。本当は何かしらのチームの指導する立場になることが夢だったこともあり、技術的な練習方法やモチベーションを上げるための一言を研究し、試してみるもののなかなかうまくいかない。そう、相手は子供なのである。


本書の面白さは『わたし』の思いが空回りする現実と子供の成長スピードとのギャップで苦悩しながらも生活している姿だろう。自分のチームがミスをする、攻め込まれている時にタッチラインから大声で怒鳴っても子供たちには届かない。ハーフタイムや試合終了後に反省の話をしても決してプラスにはならない。そして子供たちのサッカーは『何のために』しているのか、が大きなテーマになっている。


プロスポーツのサッカーはもちろん『勝つ』ことがゴールだけれども、子供たちのサッカーのゴールは『勝つ』ことだけではなく、一方で『勝負は関係ない』ということもない。これは物語の中でも『わたし』が最後まで苦悩している部分でもある。実は本書を読みながら自分自身の仕事やプロジェクトのことを思い浮かべてしまった。ついつい失敗に対して感情的な言葉を発してしまうケースが多々あるのだが、ここに登場する子供たち同様にそんな言葉は心に届かないんだろうな、と。よく『褒めて成長させる』とはいうものの、なかなか難しいものである。『わたし』もつい感情的になって携帯電話をたたきつけ、部品が飛び散るシーンには思わず頷いてしまった。


 


本書はサッカー好きはもちろん、サッカーをしていなくても子供を持つ大人たち、子供がいなくても部下がいるビジネスマンと多くの人に何らかの贈り物を手にすることができる作品だろう。ここまで『語り』で物語を作り上げている作品は少ないので、きっと楽しみながら最後まで読み進めてしまうことだろう。


価値観が分かれるテーマでもあるので、『読書会』の課題図書として読んでみるのもいいかも知れない。