大切なものってなに? 『マイレージ、マイライフ』




"マイレージ、マイライフ [DVD]" (ジェイソン・ライトマン)


この映画は映画館で見れば良かった、それぐらい素晴らしい作品だ。邦題を除いては。


ストーリーもいいが、何よりも光っているのはジョージ・クルーニーの演技だ。真剣な顔をしてのスピーチ、すべてから解放されて楽しんでいる笑顔、難攻不落な交渉相手の心を開く交渉シーンなどどれをとってもパーフェクトに演じている。まるで演じているのではなく、役そのものを地でいっているような印象すら受ける。


 


一年のほとんどを飛行機で飛び回り、各地で「クビ」の宣告を企業に代わって行う交渉人。家を持たず、モノを持たず、勝手気ままにその時を楽しむ、そして唯一の目標は1000万マイルを貯めること。至上7人目、最年少での達成を目論む。しかし、心理学を学び経営の効率化を武器に入社してきた新人はネットを利用した面談を提案し、その目標が危うくなる。


 



このストーリーには非常に多くの哲学的な要素が散りばめられている。いろいろなものを背負いながら生活することが本当にいいのか、と問いかけながらも勝手気ままな人生には空虚しかない、と見せつける。ジョージ・クルーニーのスピーチシーンと1000万マイル達成時に機長と会話するシーンは多くの人の共感を呼ぶに違いない。


日本以上に『クラス』制度と意識がある米国で、利用すればするだけステージアップされるマイレージプランはある意味、麻薬のような効果を発揮する。エアラインであれば優先チェックイン、アップグレード、ホテルでもチェックインからチェックアウトまでまるで別世界の待遇を受けられる。かつて僕もヒルトン、ハイアット、スターウッドの上位メンバーだったし、度々の太平洋横断でエアラインのマイルも貯まり、そのマイルを使って家族でビジネスクラスで香港に行ったこともある。ディズニーほどじゃないけど、ちょっとだけ夢を見る、あるいは優越感に浸れる一瞬を味わうことができる。でも、ある時にそれはまやかしでしかないことに気づく。仕事が変わり、そんな生活から遠のけば全く関係ない世界になってしまう。


 


マイレージだけではなく、仕事に対する誇りや相手への接し方、スピーチで使う言い回しなど学ぶべきポイントは多々ある。きっとこの作品は何度も見るヘビーローテーション行きになることは間違いない。


 


そしてもう一つ。


更に楽しむのであれば、垣根涼介の『君たちに明日はない』シリーズを読むことでまた違った味わいになるだろう。




"君たちに明日はない (新潮文庫)" (垣根 涼介)