ジーンズをかっこよく着こなしたくなったら 『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』 山本ケイイチ




"仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)" (山本ケイイチ)


本書もかなり寝かせていた本である。少なくとも1年以上は僕の本棚の中で静かに読まれるタイミングを待ち続けていた。きっかけは元大手コンサルティングファームのパートナーとの再会。彼が語るトライアスロンの魅力、そして何よりもロードバイクに乗る彼の姿が颯爽としていたことが読み始めるきっかけになった。


 


まず最初に、本書は99%トレーニングに関する内容であり、ビジネス書的な内容はほぼ書かれていない。そのため、トレーニングをしている人、あるいはトレーニングを始めようと考えている人以外が読んでもあまりメリットはない。が、読み終わってみると本書のタイトルがなぜ『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』なのか十分納得できるだろうし、中で著者が語っている内容をビジネスに置き換えても同じようなことが言える、と感じるだろう。


 


最近、週に3回ぐらいジムでトレーニングをするようになって本書で言われていることがよく理解できる。20代の頃はとにかく少しでも重いウエイトを上げられるようになることだけを考えながらがむしゃらにウエイトトレーニングをしていた。当然、今は筋力も体力も全然違うので重さも目的も違う。そう、自分がターゲットにした重さや回数にチャレンジしてクリアできるかに価値を感じ、継続性の中でのターゲットや自分の身体と会話しながらチャレンジすることが大きく違う。著者の山本氏も最初の章で『メンタルタフネスが向上する』と説く。トレーニング以外の食事や睡眠とのバランス、習慣化などビジネス書のコーナーに行けばいくつも平積みされているような内容を非常に意識するようになる。そして大人になってからのトレーニングに大切なのは『目的』と『手段』という考え方。仕事で言えば、『目標』と『戦略』(もっと細かいレベルであれば『タスク』)と考えると馴染みやすいかも知れない。つまり、大人のトレーニングの成功ステップはビジネスの成功ステップと非常に似ていて、どちらかを成功できる思考がある人はその両方を得ることができる、ということになる。


 


読み進めながら非常に感慨深かったのは、トレーニングを成功させる人はトレーナーなり、ジムのスタッフとコミュニケーションをとり、他の人の意見やアドバイスに対して素直に耳を傾ける、という話。たしかに良い仕事をする人は聞き上手だし、我を押し付けない。非常に納得感がある。


実は本書の文章もそれに近い印象を受ける。押しつけがましくなく、文章そのものがスマートというか、フォームがきれいな感じがする。無駄が無いと言い換えてもいいかも知れない。持論とケーススタディを織り交ぜながらトレーニングで得られる『楽しみ』を披露してくれる。またジムの良し悪しを判断するポイントとして掃除が行き届いているか、施設の手入れが行き届いているか、など非常にベーシックな部分で分かるという。逆にトレーニングする人も器具の扱い方でその人が分かる、と。これもビジネスとの共通点と思う。


そして面白いエピソードがこれである。



私は以前、あるコンサルタントに、


「会費が高いフィットネスクラブと、そうでないクラブの違いって、どこにあるんですか?」と質問したことがある。


そのコンサルタントは、


「ロッカーとロッカーの間隔だよ」


と即答した。


如何です、分かりやすいでしょう。


 


タイトルは『釣り』でなく、トレーニングに関するポイントを網羅しながら最後にはビジネスとの共通点を感じさせるこの文章は秀逸。満足度の高い新書でした。