いろいろ勉強になった一冊 『街場のメディア論』 内田樹




"街場のメディア論 (光文社新書)" (内田 樹)


ブックファーストの遠藤店長のブログに反応して、営業が進んでいる本を別にしてその他のものを『塩漬け』にすると発表した内田樹氏の本はずっと気にはなっていた。書店でもよく見かける著者名だし、平積みの山はあちこちにあるし・・・と。たまたまタイトルに引かれて手にしてみたところ、なかなかいける内容でした(看板で初めての店に入り、非常に美味しい料理に巡りあった感じに似ている)。


 


本書は著者の内田樹氏が神戸女学院大学の講義で話した内容を起こした本である。僕の学生時代にこの講義を聞いたら興味は持つけど理解するのが難しかっただろうと想像する。内容が難しいというよりも範囲が広い。冒頭は教育論、そしてマスメディア概論、(マス)メディアとクレイマーの類似性、(マス)メディアの課題、読書に対する内田氏の考え、という流れになっている。教育者、学者という世界で過ごしているからか商売っぽさがなく(つまり特定サイドに偏っているような)、ある部分では理想論的に感じる部分もある。一方ではユニークな切り口で課題を整理している部分も多々あり、メディアや出版以外にも考えさせられる記述が多い。


敢えて注文を付けるとすると、『メディア』という言葉の使い方がほぼマスメディアと同義語に使われているが、ある部分では『マスメディア』であり、ある部分では『メディア』となっていて、使い方が曖昧な部分がある。他の言葉はちゃんと定義しているのに、なぜかタイトルにもなっている『メディア』が不明確な点がちょっと気になった。またTVと出版の扱いをもう少し整理してまとめた方がすっきりする。講義で話した内容であることは理解しているものの、読み手としての受ける印象を考えた場合、もっと『編集』した状態でも良かったのではないか、と個人的には思っている。


 


いつものように気になった点には付箋をして、テキストに書き出してみたものの、本書に関しては前後の文章がないとそのテキストを読んだだけでは意味が通じないことに気づいた。これも付箋を付けている時には感じなかったけど、書き出してみると『う〜ん』と唸ってしまった。『読む』という行為はその前の文脈も意識しながら読んでいることを改めて実感。


とはいえ、気になったテキストの一部はコメントしよう。


 



この授業を受けていた学生たちはまだ十九歳か二十歳くらいです。ほとんど「メディアの虜囚」と言って過言でないくらいに、メディアに知性も感性も、価値観も美意識もしないされている年齢です(気の毒ですけど)。


最初の部分に出てくる文章だけど、今時の20歳くらいの子たちよりも僕らの方が影響を受けていると思う。今のようにネットも無かったし、友人以外から情報を入手する方法はTVや雑誌だったので、その影響力は今以上だと思う。


 



でも、メディアがメディアについての批判を手控えたら、メディアの質保証は誰がやるんですか。質保証の基本は「ピアー・レビュー」です。同じ専門領域をカバーしている「同僚」(ピアー)による「査定」(レビュー)がもっとも信頼性が高い。


質保証と若干ニュアンスが違うんだけど、僕自身の中ではブログやTwitterなどが内容の中で『誰』の情報かが重要な位置を占めている。多くの人の評価よりも、『誰』が評価したかによって購入に結びついている(僕の場合だけど)。


 



消費者とは「もっとも少ない代価で、もっとも価値のある商品を手に入れること」を目標とする人間のことです。


面白い定義だと思う。購買フレームワークで考えるとこう言えるかも知れない。


 



中国のような海賊版の横行する国と、アメリカのようにコピーライトが株券のように取引される国は、著作権についてまったく反対の構えを取っているように見えますけれど、どちらもオリジネイターに対する「ありがとう」というイノセントな感謝の言葉を忘れている点では相似的です。


 


僕たちがなによりも優先的に配慮すべきは、読者を創り出すこと、書き手から読み手に向けて、すみやかに本を送り届けるシステムを整備することです。


この2つはかなりインパクトがあった。購買する消費者ではなく、『読者』を増やすことが大事だといい、『読者』は作品を手に入れられることに『感謝』する。メディアの世界だけではないだろう。