本当にやりたかったことなのだろうか 『ザ・エージェント』


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トム・クルーズ繋がりで彼の古い作品を見直している。今回は『ザ・エージェント』で、日本では97年に公開されたものだ。映像の中のトム・クルーズは本当に若々しく、今から見れば13年前(撮影時期を考えれば14-5年前)だから当たり前と言えば当たり前なんだけど。


トム・クルーズ演じるジェリー・マグワイアはスポーツ・エージェントで、プロスポーツ選手の代理人として年俸や条件の交渉を行い、有利な条件を引き出すことを生業としている。米国のプロスポーツ選手の年俸が著しく高騰した要因として彼らの存在が挙げられる。日本でも野茂がメジャーリーグに移籍する際に団野村氏が代理人をしたお陰で、多くの人がスポーツ・エージェントの存在を知ることになる。


 


映画の中では担当していたアイスホッケーの選手が大けがで入院し、お見舞いを兼ねて病院を訪れ、ベッドに横たわる選手は休むと契約違反になるため、家族が止める中、起き上がろうとする。帰り際、ジュリーはその選手の子供に中指を立てられる。優秀な選手を持ち前の交渉力と幅広い人脈で高額な契約を取り付けてきたジュリーに違う気持ちが芽生え始める。その気持ちを綴った文章をキンコーズで製本し、『提案書』として提出したことが仇になり、クビになってしまう。


ここからは僕の私見だが、ジュリーは大きな勘違いをしていたんだろう。エージェントは交渉人であってプロデューサーではない。つまり、組織のメンバーとしてのエージェントはどんなに華やかで大きな商談をまとめても、商談を好条件でまとめる以外は期待されていなく、ましてや選手の未来や選手の家族のことを考える立場ではない、ということに気付いていなかった。『提案書』に書いた『我々がこれまで言わないできたこと、業界の未来』はエージェントではなく、プロデューサーとしての仕事なのである。


僕はジュリーの考え方に賛成の立場であるが、実際のジュリーはなかなか仕事がうまくいかない。よく考えれば当たり前である。プロデューサーとして新しいタイプの仕事をしようとしているのに、やっていることはエージェントの仕事なのである。本当はチーム側だけではなく、クライアント側に対してもコンサルティングをして、年俸の多寡だけではなく、その後のライフスタイルなどを含めて交渉に当たらなければいけないにも関わらず、とにかくフィーの交渉だけを進める。結果的にアメフト選手のロッドの交渉権、そしてロッドの活躍で大きな商談が決まったが、正直これは結果オーライでジュリーが目指したものとは違う気がする。


 


映画全体の出来は今見ても良く出来ていると思うけど、改めて見た時にジュリーが本当にやりたかったことってこれなのか、という疑問は残ったままである。