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高い完成度 x さわやかさ = 新・雫井ワールド 『ビター・ブラッド』 雫井脩介


"ビター・ブラッド (幻冬舎文庫)" (雫井 脩介)


実はこの作品を読むのは3度目です。それでも全く読み飛ばさずに最後まで読んだぐらいなので非常に良くできた作品だと思う。『犯人に告ぐ』や『クローズド・ノート』の作者でもある雫井脩介氏の作品だけど書き方は全く違う、というか、別人が書いたぐらいの違いを感じる。


1度目は雑誌『Papyrus』に連載されている時に読んだんだけど、そのタッチの違い(っていうのかどうか分からないけど)は最初に感じた部分。それからテンポというか、リズム感が良くて、文庫で500ページあるけど、あっという間に読み切ってしまう。


 


主人公は警視庁の刑事になったばかりの佐原夏樹で、所轄のそれも分署に勤務している。父親は本庁捜査一課の刑事で、両親が離婚したため、姓が違い、夏樹は母の蒸発の原因を作った(と思っている)父・明村を恨んでいる。明村が所属する五係はユニークなキャラクターで構成されており、明村自身も警察内外問わず、『ジェントル』と呼ばれ、そのせいで夏樹は『ジュニア』と呼ばれるようになる(この辺でこれまでの雫井作品とは違う)。ある事件で、本庁合同捜査になった夏樹は父・明村と組まされ、明村から刑事としてのテクニックを教え込まれる。が、それはなぜか『ジャケットプレイ』。そう、郷ひろみばりの颯爽とジャケットを羽織るあれである。そんなふざけたようなテクニックが事件の途中で役に立ち、ほかのテクニックは実は理にかなっていて、犯人逮捕のきっかけになる。


 


この時の事件がその後の事件の伏線になっている。


この作品のタイトル『ビター・ブラッド』はうまくコミュニケーションできない親子、訳ありの関係、そして刑事としての血筋(祖父も警察官)といった部分に基づいて付けられているんだと思うけど、解説に書かれたいたもう一つの『血』と併せてダブルミーニングという意味も本当かも知れない。まあ、それはちょっとやり過ぎ感があるけど・・・・(気になる方は是非、読んでみてください)。


複数回読んだ僕の中で若干違和感に感じているのは、夏樹が刑事として出来過ぎること。最初の事件が刑事になって1ヶ月経過した時に起きている。そのうちの3週間は事務的な処理を教えてもらっていたぐらいの経験値しかないのに、熟練の刑事のような勘と行動力、そして質問力がある。そこは出来過ぎでしょう。


ストーリーの中では会話文の中に夏樹の気持ちを挟み込むような手法を採っており、これは夏樹のキャラクターの強める効果、そして意志の強さを表現することに威力を発揮している。読んでいる途中も、読み終わった後もさわやかな印象を受ける作品に仕上がっています。