今まで読んでいなかったことが悔やまれる 『情報の「目利き」になる!―メディア・リテラシーを高めるQ&A』 日垣隆


"情報の「目利き」になる!―メディア・リテラシーを高めるQ&A (ちくま新書)" (日垣 隆)


日垣さんの本は何冊か読んでいて、尊敬する書き手の一人なんだけど本書は中でも秀逸。編集の仕事、マーケティングの仕事に携わっている人だけじゃなく、もっと幅広い層の人たちに読んでもらいたい。


これまでの経験で、まえがきが素晴らしい(単にいいことを言っているだけではなく、理路整然とまとまっている書き方をしている)作品は概ね中身も素晴らしい。(日垣さんが考える)リテラシーの定義から始まり、メディア・リテラシーを『情報の目利き』と表現している。この本の値段が1000円でおつりがくる、ということ自体が破格である。いくつか気になって箇所を引用しながら考えてみたい。


 



私の本は数万部程度しか売れないのだが、そんな小さな単位でも「読者」が全然見えなかった。私は読み手が「見える」ようにしたかった。


ダイレクトマーケティングを生業にしている人であればこういう考え方が生まれるのも理解できるが、ライターの方がこう感じるのは稀なのではないだろうか。まして、この本は2002年に出版されている(つまりその前に書かれている)ことを考えると当時はネットもリアルもほぼ一方向のコミュニケーションが一般的だったので、非常に先進的というかバランス感覚がある人なんだと思う。それはきっと、常に一次情報に触れる立場で過ごしてきた時間が長いからなんだろう。


 



リテラシーの第一歩は、「知る」ということから始まります。知ることによって、それまで見えなかったものが見えてくるようになるわけです。ただし、どこかに書いてあることや教えられたことをそのまま覚えるのとは違って、以上の指摘は私の「観察」によって「検証」に耐えたものです。


これは深い。新しいことを聞いて『知る』だけではなく、『検証』して自分のものにする、というところが大きい。本書が書かれた時代よりもネットの情報量は増え、検索エンジンの精度が上がったため、ネットを検索して分かったつもりになってしまうことが多い中、『観察』(じっくり見るだけではなく、いろいろな角度から見る)し、『検証』する。先にも書いたとおり、できる限り一次情報に確認を取る、という行動が基本になっている。


 



(出会い系に対する印象を聞かれ、その回答する中で)


「顔を合わせたこともないから親しくなれるわけがない」のではなく、「顔を合わせたこともないからこそ親しくなれる」という現象が広がっている。これを拒絶感のみで切り捨てるのは浅薄にすぎる。顔と容姿からほとんどの好感度印象を読み取っていた時代のほうが、一方的で偏見に満ちていたのかもしれないではないか。


既成概念や過去の経験にとらわれず、今の流れや変化に敏感で、そしてそれを受け入れる柔軟性がすごい。過去の成功体験は自信に作り上げるけど、それ以上になるとその経験が足枷になってしまうところを『受け入れる』。


 


後半の第18話に娘さんからの質問に回答する日垣さんがいる。親として、大人としての真摯な説明と愛情を感じる。ほんとにどこを読んでも価値が高い。これまでに読んでいなかったことが悔やまれる一冊。