『個』を重視し、価値あるサービスを提供する 『ザッポスの奇跡』 石塚しのぶ


昨年末に河野さんに勧められて購入したものの本棚で温めていた一冊。『何となく時期かな』という感覚があり、読み始めた。最初に答えをいうと、ザッポスは非常に魅力的な会社だし、学ぶべきポイントもたくさんある。一方、著作としてのこの本は今ひとつだ。おそらく100ページで済む内容を200ページに水増ししている点が許せない。本書をあちこちのレビューで見るとその多くは非常に肯定的なコメントが占めてるが、その理由はザッポスを書いているからで、ザッポスそのものに魅力がある。



ザッポスの「10のコア・バリュー」

  1. サービスを通じて,WOW(驚嘆)を届けよ

  2. 変化を受け入れ,その原動力となれ

  3. 楽しさと,ちょっと変わったこと、をクリエイトせよ

  4. 間違いを恐れず、創造的で、オープン・マインドであれ

  5. 成長と学びを追求せよ

  6. コミュニケーションを通して、オープンで正直な人間関係を構築せよ

  7. チーム・家族精神を育てよ

  8. 限りあるところからより大きな成果を生み出せ

  9. 情熱と強い意思を持て

  10. 謙虚であれ


このコア・バリューのおかげで現場の対応から採用に至るまで個々人の判断にブレが生じないことが大きな強みになっている。本書の中でも数々のエピソードが紹介されているが、きっとこのコア・バリューを定義して明文化できたことで『ユニーク性』を『強さ』に変えることができたのだと思う。


そして非常に感銘を受けたのが『個』の自己実現をサポートする仕組みを作ったこと。随分前に『ヒトデはクモよりなぜ強い』を読んで、これからの組織構造はこういう形なんだろうな、と思ったんだけど、正しくビジネスでこれを実現しているのがザッポスだといえよう。中央集権型の組織体制ではなく、個々が考えながらブレずに行動できる組織体制。ザッポスの場合には会社という形態だけど、今後は必ずしも会社という組織体とは限らないだろう。こういう組織の中で個々の経験やスキルをアップするチャンスがあることは非常に幸せなことだろうし、ここで生み出されるアウトプット(=ザッポスの場合にはサービス)は顧客に対しても価値あるものだと思う。間違ってはいけないのは、ザッポスのサービスは万人のためのものではないこと。提供されるサービスに対して価値を感じる人だけが顧客になりうる。ちょうど入社時に『カルチャー・フィット』を重視するのと同じだ。やっぱり、顧客を明確にすることは非常に重要なことである。