家に愛犬がいない人も十分楽しめるよ 『一分間だけ』 原田マハ


"一分間だけ (宝島社文庫)" (原田 マハ)


今日も原田マハ。本の帯には『"働く女性"と"愛犬"のリアル・ラブストーリー』と書かれている。ラブストーリーはラブストーリーだけど、単にラブストーリーとして考えるにはもったいない。雑誌編集の仕事をする藍は冴えないコピーライターの浩介と一緒に暮らしながらも、どこか『このままでいいのか』という気持ちを持ちつつ毎日仕事漬けの日々を過ごす。取材の中で知り合ったゴールデンレトリーバーの子犬をもらいうけ、『リラ』が家族の一員になって新たな生活が始まる。現状に満足できない中、リラが病気になり、いろいろな思いと葛藤しながらの藍が描かれている、というのがアウトライン。リラが家族になることで、それまでの恵比寿からリラが飼える郊外に引っ越す。郊外として書かれているのが『調布』。調布は郊外なの?、と思いながらも、読んでいると深大寺付近のイメージなので、ちょっと納得、ちょっと矛盾を感じた。だって、この設定で考えると駅から毎日タクシーじゃないと帰れない気がする。

 

この本で一番の出来はタイトルだと思う。『一分間だけ』は最後の最後に出てくるシーンで、たった数行のためにその前に約300ページを割いている。定石な感じではあるものの、気持ちを揺さぶりながら最後の数行で最高潮にもっていく。原田マハの巧さは、登場人物の心の状態を表現するのが絶妙なところだ。何気ない会話やその時の仕草に絶妙なスパイスが含まれている。特に主人公のキャラがよくあるような『普通の人』ならば、より効果的である。どの作品も同じような感じを受けないにもかかわらず、この辺の巧さだけは共通している。『感覚』をテキストにできる、って凄いな、と思いながら、いろいろ考えている自分がここにいる。