「眠れぬ真珠」 石田衣良

眠れぬ真珠 (新潮文庫)

眠れぬ真珠 (新潮文庫)

文庫本が出たので改めて文庫本を手に取ってみました。前回同様に読後の満足感は全く同じか、むしろ今回の方が良かったかも知れない。石田衣良の作品の中でも感情の起伏が比較的平坦で、秘めたる情熱を感じさせる作品です。「恋愛に年齢は関係ない」と思いつつも身体的な変化は訪れ、老いを意識せざるを得ない中でも気持ちに対して正直に向き合っていく咲世子の姿は男も女も惹かれる部分があるだろう。四十代半ばで独身、葉山で暮らす版画家というシチュエーションは一歩間違えば安いドラマになりかねない。でも安いドラマのような葉山という言葉から来るイメージや版画家(=アーティスト)から想像される「特別」感を一切使わずに書ききっているところがすごい。
もう一つの特徴は映画や音楽のタイトルをところどころに散りばめているところがポイント。映像や音楽はそれぞれの人に記憶の想い出を呼び出す作用があるので、一つのストーリーが読み手それぞれの独自ストーリーに変化し、新しい記憶として格納される。そのため、楽しみ方は無限にある。文庫本の帯には「著者最高の恋愛小説」というコピーが書かれているが、石田衣良の作品の中でも指折りであることは間違いない。