「心臓と左手 座間味くんの推理」 石持浅海

心臓と左手  座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)

心臓と左手 座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)

「月の扉」で登場した「座間味くん」(本名は相変わらず明かされていない)の推理視点7編の短編。6編はそれぞれ独立していて、「月の扉」のその後としてどれを持ってきても辻褄が合うようになっている。ただし、どれも習作の感が拭えない。先にロジックだけがあり、そのロジックを成り立たせるためにストーリーという肉付けをされている。座間味くん自身の描写も曖昧なままで、必ず大迫警視と一緒に美味しいものを出す店に行きながら食べ物が美味しそうではない。著者の力量がまだまだ発展途上ということでしょうか。
最後の「再会」は「月の扉」の11年後であり、この作品だけは別格。座間味くんが推理をするところは同じだが、ロジックに頼っていないためにストーリーが生きている。石持浅海=本格推理小説家とよく書かれるが、「本格」に拘らない方が良いのではないか。こう言ってしまうのは、プロの作家の作品を「習作」と言いながらも石持浅海の作品が好きなんでしょう。「どこが・・・・・う〜ん、よく分かりませんが」、ふと友人に言われた言葉を思い出した。
「好きに理由は無いけれど、嫌いにはいくつもの理由がある。」