「ラストワンマイル」 楡周平

ラスト ワン マイル

ラスト ワン マイル

熱を帯びた小説-まさしくこの作品がそうである。コンビニ大手とネットショッピングモールから更なるディスカウントを要求された物流会社の営業がその穴を埋めるべくして考え出した新たなビジネスモデルの構築を描いていく。そこには更なる競合「郵政」という巨人も加わり、物語は最高潮を維持したまま最後まで突っ走っていく。
見方によっては、これはあの会社がモデルだろう、ということは簡単に想像つくが、それぞれの企業の特徴を組み合わせた姿を描いているのでイメージは更に強烈なものになる。従来は商流の最下流に位置付けられ、上流企業からの価格交渉に耐えうるよう仕組みの見直しを繰り返してきた物流会社が、自分たちの強さを再認識してその強さを中心としたビジネスを創出していく姿は爽快感も覚える。またところどころにまき散らしてある小さな光のようなエピソードもストーリーに奥行き感を与えている。例えば、地方の農家が作る通常の流通に乗らない野菜を流通させることが出来れば、双方にメリットがあるだろう。子供の頃、夏休みのプールの帰りに農家の畑でもらったトマトの味と香りは今でも強烈に残っている。それを普段食べている人には当たり前でも、大多数は当たり前になっていないところにビジネスチャンスがある。
特に印象的だった言葉は
「企業における真理は二つしかない。
第一は、トップに立つものが経営に関する全責任を負うということ。
第二に、仕えるものはトップの意向に従って、与えられた職責を果たすこと。」
シンプルであるが故に重みがある。

仕事で辛い思いをしている人は「やけ酒」よりこちらの方が効果が大きいと思う一冊。