担当編集者に頑張って欲しかった… 『クローバー・レイン』 大崎梢




"クローバー・レイン (一般書)" (大崎梢)


 


う〜ん、好きだから(作家がね)及第点をあげられません。やっぱり彼女の真骨頂は短篇なんだと思う。でも作品の仕上がりは内容も含めて悪くないし、多くの人の読んでもらいたい作品でもある。でもねえ、丁寧に描いて欲しいところがあっさりしていたり、ここまで繰り返さなくてもいいような部分が繰り返し登場したり、って印象を受ける。その辺は本来、編集者の技量というか仕事なんじゃないのかなあ。


 


この作品の主人公は29歳で大手出版社の文芸編集部に勤める若者。裕福な家に生まれ、高校も大学も、そして就職も望むところに落ち着き、いわゆる挫折知らずでこれまできた。ふとしたきっかけで過去に新人賞を受賞しながらも「過去の人」になってしまった作家の原稿を読み、その原稿を出版すべく奮闘する、というのがメインストリーム。その中でいつの間にか上から目線というか、大手の論理で価値判断をして仕事をしていた自分に気付かされる。


 


出版社や書店内情に詳しい著者だからこその描写はあちこちに出てくるものの、なんとなくそれが活かされていない。この作品だけを読めばそうは感じないのかも知れないけど、「成風堂書店事件メモシリーズ」で著者の技量を知っているとなんとなくもどかしい。短篇は文章の量に制限があるからこそ、言葉も中身も取捨選択を迫られ、輝きを与えられるけれども、この作品にはその精彩がない。だからといって、作品がつまらないわけでもない。


 


もし僕が担当編集者なら主人公目線の文章を抑えて、他の登場人物のエピソードをもう少し丁寧に描いて最後の部分で合流させるような形で修正してもらうかなあ。ラストシーンは流石に上手い仕上がりになっているけど(うるうるきたし)、ここを描くだけなら短篇で済むはず。やっぱり100M走るのと3000M走るのは走り方の考え方は違うよね。そこが納得できない点だろうなあ。それから、編集者を描きたかったのか作家を描きたかったのかが中途半端に盛っちゃったのがいけないのかも。言葉では大変な様子が書かれているんだけど、大変さが伝わってこない。ここを乗り換えないと埋もれちゃう危険がある。頑張って欲しい。