このひと言は秀逸「人間、もう必要とされなくなった場所に居てはいけないんだよ。」 『勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4』 垣根涼介




"勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4" (垣根 涼介)


 


君たちに明日はない」シリーズ最新刊は過去最高の出来だ。休養明け最初の作品である前作「張り込み姫」も満足度は高かったけど、この「勝ち逃げの女王」は著者の垣根涼介氏の「思い」がストレートに出た力作。「File 3. 永遠のディーバ」ではまたも電車の中で涙ぐんでしまった。


 


4つのエピソードで構成される本作「勝ち逃げの女王」もシリーズの主人公であるリストラ請負人 村上真介の活躍を中心として描かれているが、「File 2. ノー・エクスキューズ」で初めて、かつて村上の被面談者として自主退職を促し、そして自身の会社に採用した社長の高橋の過去が語られる。それは、シリーズが新たな局面に入っただけではなく、成長した村上に高橋が伝えたい「気持ち」という無形のバトンを渡した瞬間でもある。実社会でも先輩や上司から目に見えないバトンを受け継ぐ瞬間がある。経験的にも精神的にも、相手からみてキャッチできる素地が生まれ、次のステージにジャンプアップするタイミングだ。


 


過去のエピソードを含めて、この「君たちに明日はない」シリーズにはそれぞれモデルとなる企業が実在する。名称は変えてあるものの、誰がみてもその企業は明らかである。タイトルにもなっている「File 1. 勝ち逃げの女王」ではJAL、「File 2. ノー・エクスキューズ」では山一証券、「File 3. 永遠のディーバ」はヤマハ、そして最後の「File 4. リヴ・フォー・トゥデイ」はすかいらーく


「File 2. ノー・エクスキューズ」は先に書いた通り、高橋の過去が語られるだけではないく、かつて山三証券で高橋がリストラ請負人としてリストラした二人が登場し、会話の中で団塊世代の仕事観や昭和という時代を浮き彫りにしている。特に元山三証券の二人に「なぜ山三を選んだのか」という村上が質問するシーンはこのエピソードの一つの山場でもある。この質問に対する二人の答えは「説明会に来た学生にわざわざコーヒーを出してくれた」ことと言われ、村上はあっけにとられる。でも、この瞬間に激しく同意した自分がいた。こんな些細なことがその会社や組織の考え方や文化を如実に表す。ロビーの作りだったり、受付の人の応対だったりって最初に受ける印象のきっかけだけど、その印象はほぼ会社の印象と変わらない。今どきなら、受付に人を配置している会社は間違いなく「一緒に」ビジネスをしていこうという素地がある。効率を考えたら電話を置いておけば済む話だからね。


元山三の一人、小平のこのひと言は大事な仕事観なので書いておこう。



「人間、もう必要とされなくなった場所に居てはいけないんだよ。だったら、そんな場所はとっとと捨てて、新たに必要とされる場所を探したほうがいい」


同感!


 


涙を流した「File 3. 永遠のディーバ」では経験を積んだ村上がある意味でうまくいかなかったエピソード。リストラを促す村上の仕事は常に冷静に、そして客観的な立場で相手を誘導する必要がある。が、今回は自身の過去を面談の場でカミングアウトする。でも、人が次のステージにいく時ってそれまで背負っていたものを一度下ろさないといけないのかも知れない。村上も、このエピソードの主人公も、そして脇役として登場するバーのマスターも。このエピソードの内容は書きません。是非、読んで泣いてください。


ちなみに僕の脳内では最後の10ページ強はこの曲が流れてました。



 


おまけ。


本書は発売日に池袋のリブロで購入してサイン会の整理券をもらってウキウキしていたんだけど、今日はサイフを家に忘れてその整理券がなくサインをもらえなかった・・・。


 


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