「帯に偽りなし」だった 『楽園のカンヴァス』 原田マハ




"楽園のカンヴァス" (原田 マハ)


 


手元にある第5刷の帯には絶賛の言葉が並べられている。「今年度のベスト級」や「こんな絵画ミステリーは初めてだ!」と美辞麗句のオンパレード。この本を読み終わった今の気持ちは、「これらの言葉に偽りはない」と。


著者の原田マハは変幻自在な作家で、作品ごとにいろいろな顔をのぞかせる。中でも美術をテーマにした作品は彼女の真骨頂で「#9(ナンバーナイン)」同様に、この「楽園のカンヴァス」もきっと代表作になるだろう。少しだけストーリーに触れておくと、伝説のコレクターが保有するアンリ・ルソーの名作を二人のキュレーターに真贋を鑑定させる。ただし、直接その絵を科学的に鑑定するではなく、交互に一冊の日記帳を読み、最後にその作品の真贋を問う。勝利をおさめた者はその作品の取り扱い権利を手に入れることができる。知識や経験の勝負ではなく、想像力と倫理観、そして人間性の戦いである。そこにアンリ・ルソーが生きた時代のストーリーが重なり、予想もしない結末が待っている。そして、そこで物語が終わらず、更なる展開が続く。


 


原田マハの作品の特徴は「登場人物が生き生きしている」という点だと思っている。必ずしもポジティブな気持ちで生きているとは限らないが、生活感があり、地に足が付いた「生きる」力強さを感じさせる。それは会話だけではなく、登場人物を表現する際の目線というか写真でいうところのフレーミングが独特なのだろう。例えば、クライマックスシーンで、



「この作品には、情熱がある。画家の情熱すべてが。・・・・それだけです」


(中略)


この作品には、情熱がある。


織絵は、そのひと言を述べるために、専門家を捨てた。研究者のプライドを捨てた。そんな講評をすれば負けるとわかっていて、言わずにはいられなかったのだ。


という文章がある。ここだけでは分かりにくいかも知れないが、台詞以外の部分は客観的な描写というよりも著者の主観が入った描写で綴られることが多い。つまり、読者として客観的な視点で読んでいるつもりでも、いつの間にか原田マハと一緒に目の前に繰り広げられているドラマを見ているような錯覚に陥る。決して不快なものではなく、著者と非常に接近しながら一緒にストーリーをトレースしているので、登場人物への感情移入だけではなく、著者に対しても親近感がわいた状態で作品に触れている。


 


この作品の続きやサイドストーリーがあってもいい気がするが、そんな夢は叶うのだろうか。