メールだからこそ気持ちが揺らぐころもある 『北風の吹く夜には』 ダニエル・グラッタウアー




"北風の吹く夜には" (ダニエル グラッタウアー)


 


この書籍は『本が好き!』から献本いただきました。


 


メールで感情を伝えるのは難しいよね。特に恋愛感情は。キーボードから叩きながらたくさんの形容詞を駆使しても心の微妙なニュアンスはなかなか表現できない。お互いに生きてきた人生が違うから、たとえ同じ言葉でも感じ方は違うし、時には思ってもみなかった受け取られ方をする時もある。


もしメールをしている相手がこの上なく好きな人だったらメールに書かれた言葉だけじゃなく、返信が来るまでの時間さえも気になる。その時間が空けば空くほど思いはつのり、やがて不安がどんどんふくらんでくる。相手はたまたま忙しかっただけかも知れないし、コンピュータの近くにいなかったり、ケータイのバッテリーが切れてしまっているのかも知れない。相手が見えないからこそ思いだけがまるで雪だるまのように膨れ上がっていく。


 


本書のストーリーを少しだけ。


メールを開くと全然知らない相手からのメールが届いていた。そう、よくあるメールアドレスのタイプミス。こんなきっかけからお互いにメール交換をする仲に発展していく。しかし、決して相手に会うことはなく、すべてのメールを介したバーチャルな世界だけ。でもメールだからこそ言える(書ける)ストレートな言葉や必死で行間を読む気持ちによってお互いの思いは変化していく。


メールだから時々は行き違いもある。だからこそリアルよりも生々しく感じる時がある。しかし、決して会うことはしない。たとえ相手が「会いたい」と思っても・・・。


 


体裁は最初から最後までメールのやり取りで綴られている。だから時々じれったく感じる瞬間もある。そんな時は無理せず、本を閉じて気が向いた時にまた開くといい。だって、人のメールを読んでいるのだから。


 


普段のリアルな生活を振り返ってみるとメールに限らず、キーボードから生み出されたテキストを介したコミュニケーションが多いことに気付かされる。直接会って会話をするには時間的、物理的な限界があるし、10年前に比べたら電話で話す時間も大幅に減ったことだろう。メールをはじめとする非同期コミュニケーションに慣れてしまうと、自分のペースでことを進められるのでついつい多用してしまう。もしかすると、この非同期コミュニケーションの方がリアルで、直接コミュニケーションの方がバーチャルになってしまっている人も多いのかも知れない。でも、テキストで伝えられる情報量は限られていて、他の部分は受け取り手の想像力に依存する。だから、現実とは違う感情が生まれたり、ある種の興奮状態に陥ることもあるのだろう。本書の帯には「これって、恋なの?」というコピーが書かれている。気持ちが恋のモードになったのなら、きっとそれは恋なんだと思う。ただし、本当のリアルな世界でもそれが続く保証はないけどね。読み終わって「涙」はしなかったけど、テキスト社会に於ける恋愛事情という世界観は考えさせられた、そんな時間だった。