読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

まるでイコライザーでどの周波数帯もプラスにしてしまっている音楽のようだ 『六つの手掛かり』 乾くるみ

Book




"六つの手掛り (双葉文庫)" (乾 くるみ)


 


「ミステリー」に何を期待するか・・・トリックか、それともストーリーのロジックか。そこに正解があるわけではなく、それは読者それぞれの好みに左右されるポイントだろう。更にそれらの仕掛けが精巧に埋め込まれていても面白いと感じるかどうかは、また別の話である。


最初にこの作品の印象を言ってしまえば、ミステリーに求められる要素がほとんどが利用されている。そして、短編という限られてた文字数を考えると一つ一つの作品の完成度は非常に高いと感じる。だが、一冊の本という体裁で捉えると残念ながら素晴らしいとは言いがたい仕上がりになってしまっている。まるで一つ一つは良い曲なのに、アルバムとしての完成度はバランスが悪くてダメになっている作品やイコライザーでどの周波数帯もプラスにしてしまっている音楽のようだ。


 


タイトルから想像がつくかも知れないが、この作品は6つの短編から成り立っており、連作短編の形式になっている。それぞれのタイトルもかなり凝っていて、


  • 六つの玉

  • 五つのプレゼント

  • 四枚のカード

  • 三通の手紙

  • 二枚舌の掛軸

  • 一巻の終わり


と数字が降順で使われている。更に、それぞれの作品の中で事件が発生していろいろなトリックが用いられている。例えば、「六つの玉」のこの「玉」はジャグリングに使うボールで、被害者のポケットから出てくる。全体の主人公 林茶父は元手品師という設定のため、被害者の行動をイメージしながら謎解きをする。以降の短編で林茶父のバックグランドやキャラが少しずつ明かされていきながら、それぞれの事件を彼が解決していく流れである。


この辺まではよくある連作短編の手法なのだが、毎回事件で被害者は死んでしまう(それも短編の中で)。続けて読んでいると、「また死んじゃうの?」という気持ちになってくる。元々は雑誌『小説推理』に飛び飛びで掲載されていたので(「一巻の終わり」は単行本の際に書き下ろし)、その時には違和感が無かっただろうが、一冊の本として連続で読んでいくと徐々に違和感が増してくる。


さらに、過去に乾くるみを読んだことがあると「あれっ? 前にも林某という人物が出てこなかったか・・・」と思う(少なくとも僕はそうだった)。解説で山前譲氏が書いているが、他の作品に登場する林某と兄弟なのである。そして、そのネーミングにも細工がしてある。「いや〜、やり過ぎでしょ」という気持ちになります。


 


過去に読んだ乾くるみの作品はかなりツボにはまったけど、今回はちょっと残念な感じ。ディティールにこだわっている作風が乾くるみの持ち味ではあるけど、やり過ぎ感が強い。もし、すべてが殺人事件で無ければ印象が違ったかも知れない。だって、x曜サスペンスだって同じ主人公が殺人事件を解決するのは数ヶ月に一回でしょう(ドラマは毎週死者がでるけど、役回りは大体刑事だから)。でも、雑誌で読んでいたらこうは感じなかっただろう。


iTunesの中から好きな曲だけでベスト盤を作って聴いていると疲れちゃうのと一緒で、やっぱり全体としての文脈での構成が必要ってことでしょう。今、ちょっと残念な気持ちで一杯です。