偶然の出会いには学ぶべきことが多かった 『サイゼリヤ革命―世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話』 山口芳生




"サイゼリヤ革命―世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話" (山口芳生)


 


先にこれは書いておいた方がいいかなあ。本当のことをいうと、この作品は間違って買っちゃったんだよね。「そんなこと・・・」といわれるかも知れないけど、電子書籍だとこれがある。だって、ほとんど中身を確認できる訳じゃないしね(一章だけ読めたり、目次を確認できたりするけど、面倒だからそんなことはしない)。でも、これこそ偶然の出会い、みんなにおすすめしたい良い作品だった。


 


僕の中で、サイゼリヤといえば今のようなファミレスみたいな形態のお店ではなく、学生時代に柏駅東口にあった「安価なイタリアンを食べられるお店」で、特に夜中に食べた「コーヒーゼリーアイスクリームのせ」は最高の贅沢だった(今のコンビニようにいつでもスイーツが食べられるような環境ではなかったし)。


今でも近所にお店があるから僕はサイゼリヤのヘビーユーザでもあるけど、いつも注文するたびに「サイゼリヤって安いよなあ」って思う。その答えはこの本のほぼ最初に答えが書いてある。



「安くしようと努力し続けたから」である。


「はあ?」という声が聞こえそうだけど、その続きがまた凄い。



サイゼリヤのすごさは、その努力を1号店の時から40年以上にわたって続けていることにある。創業の時から「普通の人たちが日常的に食事ができる価格とはいくらであるべきか」「前菜からデザートまでのフルコースで食べても負担にならない単品の価格とはどうあるべきか」を考え続け、それに近づけようと努力しているのだ。


これがポーズじゃなくて、超が付くほど本気だから今のサイゼリヤなのだろう。「あきらめないこと」と「継続」が本気度を表していると思う。


 


ここでちょっと違う視点から。本書は所謂ビジネス書を多く出版している出版社のものではなく、柴田出版という「食に関する専門出版社」を前面に出している会社。さらに著者はその柴田出版在籍中に雑誌「月刊食堂」の中で「サイゼリヤ革命」を担当し、その後フリーライターになってもサイゼリヤを追い続けている記者。だから、上っ面でサイゼリヤを描いているのではなく、創業者である正垣氏、側近の人たち、そして会社の歴史などをインタビューと著者の考察で構成している。これが面白くない訳がない(実際にこれほど詳細に綴られる企業ノンフィクションは少ないと思う)。


 


創業者の正垣氏の理念は「お客さんが喜んでいる姿」だそうな。象徴的なインタビュー部分を抜粋してみよう。



’99年のメニューの価格改定で一番売れているミラノ風ドリアを290円にした(今は299円のはず)。


その時の正垣氏の言葉は、



(ミラノ風ドリアを値下げした理由の説明として)


「なぜなら一番うれているから。その商品が売れるのは、それを食べたお客さんが喜んでいる証拠でしょ。一番売れるってことは、一番喜んでもらっているということだから、それを安くすればもっと喜んでもらえるってことじゃない。それ以外の理由はないですよ」


(中略)


「お客さんが喜ぶんだから、逆に最高なんだよ。お客さんに喜んでもらうことがチェーンストアのビジネスにおける優先順位の第一であって、利益を出すことは一番じゃないんだから」


普通に考えたら気が狂っているとしか思えない。普通はドラッグストアのように「客寄せの商品を用意して、他では利益を確保しますよ」的なビジネスモデルは存在しているけど、本当に客寄せではなく企業努力で利益を生み出す構造にしてしまうところがビックリなところ。


 


価値観という部分ではこの言葉が印象的。



「おいしさって何なのか。これを説明するのはすごくむずかしい。だから、何とか数値に置き換えたいと考えてきたけど、おいしさとは、客数が増えることではないというのが僕らのたどり着いた仮説。その商品に価値を感じるのならたくさん売れるし、そういう商品が揃っていれば客数が増える。簡単なことなんだよ」


いやいや簡単じゃないと思うけど・・・。


 


気になった部分はもっともっとたくさんあるんだけど、それを書いていると終わらないので、僕のレビューはこの辺にしておきますね。でも、読んだら間違いなくもう一度サイゼリヤに足を運んで違う目で店内を眺め、料理を味わうようになると思う。そういう僕はその通りの行動をとって、次は前菜からデザートまで一気にチャレンジするつもり。