昭和な世界にようこそ! 『道徳不要 俺ひとり』 白川道




"道徳不要 俺ひとり (幻冬舎文庫)" (白川 道)


 


売上至上主義、効率重視な世知辛い世の中だからこそ憧れる白川道の世界。ヒリヒリするような毎日を過ごしながらも一本、筋が通ったような生き方。そんな世界が繰り広げられるのが彼の小説の特徴である。しかし、それを書いている作家も同じような生き方をしているかというと必ずしもそうとは言えない。現実はもっと泥臭く、人間味溢れる血が通った「生活」がそこにある。それは小説とは対局にある「日常」だ。だが、そこには同じ価値観で生き、時には自虐的な話で笑いを誘う、そんな白川道の姿を感じることができる。昭和な世界を「粋」に過ごす「素」の白川道を垣間見ることができるだろう。


 


ページをめくると八代亜紀の「舟歌」が似合いそうな白川道の写真が飛び込んでくる。さらにページをめくり、最初のエッセイを読んだら「笑い」とこころの中で頷く自分がいるはずである。ネットの世界だったら「激しく同意!」なんてテキストを自然に打ち込んでしまいそうなそんな文章がリズムに乗って目に飛び込んでくる。


「安けりゃいいのか」というタイトルで、のっけから白川節が炸裂する。



まず銀座の某クラブの某ママの一言。わたし本が大好きなの。休日にはたいてい小説を読んでいるわ。ほう、そりゃよかった、とわたし。小説離れが激しいと言われる昨今、うれしいじゃないか。喜んだのはここまでだった。涼しい顔で、近所の図書館で借りてきて読むの、ときた。耳を疑ったね。座っただけで何万もの金をふんだくり、挙げ句にシャンパンをねだったりするくせに、図書館で借りて読むのはネェダロー、っての。たかだか千なんぼの本ぐらい、買え、っつうんだよ。こちとらは難解な学術書を書いているんじゃない。以来、その店には二度と行かない、と心に決めた。だいたいが、いつから図書館は流行本の類を置くようになったんだ? 本来はもっと異なる目的があったんじゃないか。


たった300文字強のこの文章に銀座の店(とママ)、白川道の価値観、図書館に対する考え方が盛り込まれ、何よりも読んでいてそのリズムの良さについついページをめくるスピードが上がっていく。


僕の中には何人か天才だと思う作家がいるんだけど、白川道はその最高位にしたい作家でもある。彼の小説を知っていたら、このエッセイを読んだ瞬間に思わずニヤッとするに違いない。


 


エッセイならではの醍醐味はかなりの頻度で登場する中瀬ゆかり(エッセイの中では同居人という表現)との会話。白川道が何を言っても言い負かすことができない、いや、逆にケチョンケチョンにやられる姿を彼のペンが上手にトレースしている。


この本を読み終わった今、焼き鳥を食べながら酒を飲み、ペラペラとページをめくりながら読み返したい気分になってる。ただし、値段ではなくて仕事に筋が通った焼き手が焼いた焼き鳥であることが条件。