世間一般で言われていることが正しいとは限らない 『本の現場』 永江朗




"本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか" (永江 朗)


 


毎日のように読んでいる本、でもその本を取り巻く環境については知っているようであまり知らない。まあ、知らなくても本を読んで楽しむことはできるし、好きな本屋さんに足を運べばいくらでも新しい本でも古い本でも絶版でない限り手に入る。と思っていないだろうか。実は現実は違うらしい。書店が減っているとはいえ、現在でも15,000店もの書店が存在する(日本著書販促センターのサイトでは15,061店・2011年5月1日現在)。仮に初版1万部の本があったとしよう。大型店には数冊から数十冊単位で配本されるので、かなり多くの書店には行き渡らない計算になる。つまりたくさんの本が出版されている中で多くの人の目に触れない本が数多くあることを認識した方がいい。


別に僕が講釈述べたいわけではなく、「へぇ」って思った人は本書を読む価値がありますよ。もしかしたら、学校や職場で、あるいは酒の肴にいいトリビアがあるかも知れません。


 


著者の永江朗氏は『インタビュー術!』という本も書いているようにインタビューを通して得た情報をまとめるのが非常に上手である。本書でもかなりインタビューをベースとした箇所が多い。また著者の主観ではなく、いろいろなデータを収集して客観的な視点で論理が展開されていることも好感が持てる(データは使い方で恣意的にすることも可能ではあるが)。




"インタビュー術! (講談社現代新書)" (永江 朗)


 


最初の話題は「新刊洪水」というタイトルで新刊が増え続けている理由に迫っている。2004年に出版された本は約7万5千点(出版科学研究所のまとめ)これが10年前の1994年だと48,824点、さらに10年前の1984年だと35,853点。つまり20年で倍以上になったわけである。だが、販売数は1996年をピークに2008年は1980年頃と同じぐらいになっている。要は発行はいっぱいしているけど、売れてはいない、という現象なのである。さらによく考えれば、発行されている本の数が増えているにもかかわらず、販売数が減少しているのでタイトルあたりの販売数は極端に少なくなっている、ということである。


「なぜこうなったのか」という質問を出版科学研究所の方に聞いているシーンがあるのだけれど、その答えが興味深い。



「若者の時代が終わったから」


「いま振り返ると、80年代は若者の時代でした。とくに雑誌文化は若者のものだったし、書籍でも文庫は若者のものでした。映画とのメディアミックスで成功した角川文庫をはじめ、若者をとらえた文庫がたくさん出た」


僕にとっては片岡義男の文庫だったり(赤い背表紙のね)、雑誌でいえばPOPEYEだったりなのでしょう。


 


この他にもこの多品種生産(?)のために無くてはならなくなっている編プロ(編集プロダクション)の実情や「読書ばなれ」の根拠、なんて部分は多くの人に知っておいて欲しい部分でもあります。2009年の本なので若干新鮮味に欠ける部分はありますが、本好きの人は是非読んでおくことでまた違った目線で出版社や書店を見ることができると思いますよ。


新書の一部リーグ、二部リーグのくだりを読んで思わず新書の棚を見る目が変わりましたから。