マーケティングの本と思いきや、進化心理学の本だった 『友達の数は何人?』 ロビン・ダンバー




"友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学" (ロビン ダンバー)


 


この書籍は『本が好き!』から献本いただきました。


 


久しぶりに苦労して読み終えた一冊かも知れない。ページ数でいえば250ページ程度なので決してボリュームが多いわけではない。さらに、内容がつまらないわけでもない。しかし、進行速度は超スローペース。なぜか・・・立ち止まって内容を租借し、別の本などで調べ物が増えて、なかなかこの本に戻れないのである。それだけ興味深い内容が連続して書かれていて、飽きさせないところは新手の麻薬のような本と言ってもいいだろう。


 


これから読まれる人のために注意点を書いておこう。


まずタイトルからイメージすると行動経済学や行動心理学の本と思われがちだが、「進化心理学」であること。「つながり」というまさにソーシャルメディアに代表されるようなキーワードで全編を通じて書かれているものの、マーケティング関連の内容ではなく、遺伝子、宗教、文化、体内物質などの切り口からいろいろな調査、実験、分析をした結果に基づいて論じられている。ではユニークで具体的な箇所をピックアップしてみよう。



テキサス大学オースティン校の心理学者デヴェンドラ・シンは、18歳〜85歳までの男性195人に女性のさまざまな体型のスケッチを見せて、魅力度を評価させた。すると、男性には、太りすぎでもやせすぎでもない標準的な体重で、とくにウエスト・ヒップ比率が小さいと魅力抜群であることがわかった。具体的には比率が0.7前後が一番人気が高い(ちなみに20代の健康な女性のウエスト・ヒップ比率は0.67〜08だ)。


これは流行ではなく、ウエスト・ヒップ比率が小さい方が大きい人よりも受胎能力が高いことが別の調査で分かっているそうである。つまり、「種」を残すためにそういう選択がされるようになっているのである。


あれ、この内容とタイトルとの関係は・・・・と思った人もいることだろう。そうなのである。注意点というのは、こういう内容が書かれているのでほぼタイトルとは無関係の部分が多いことなのである。


別の箇所では「なぜ男性は浮気するのか」の解(?)のような内容も書かれている。DNAの型を調べればその人が誠実な人なのかどうか分かるのだそうだ。確率的には10人のうち6人は誠実なパートナーになり、型によっては絶対やめた方がいい人が存在する。それはその人の努力云々ではなく、遺伝子的に無理なようである。


こういうことに興味を持つ人であれば本書を読んでみることを強くおすすめする。ただし、読み流すことはほぼ不可能なので、関連書籍を追加で購入する、疑問を解決するために時間を惜しまない、という覚悟は必要である。


 


サブタイトルになっている「ダンバー数」の説明はほぼ最初に出てきて、その後はほとんど言及されない。この「ダンパー数」というのは、気のおけないつながりの範囲の数で『150』(人)と定義している。検証事例として、ゴアテックスを製造・販売しているゴア社の工場増設単位や軍隊の部隊の人数を挙げている。またこれらがたまたまの数ではないことを、霊長類に於ける組織の数やその目的(主として「種」を残すこと)から検証している。どちらかといえば、この進化に隠された謎を展開したいから「ダンパー数」というフックを用意した感じがしなくもない。


なにはともあれ、科学的な検証を重ねて綴られる本書は科学好きな人でなくてもいつの間にか夢中になっていることだろう。全体を通して「人」のつながりで進化を説明している本書はソーシャル時代を説明するサブテキストかも知れない。