ただのカラクリ暴露本じゃない 『ゴルフ場のカレーはなぜ高級ホテル並みの値段なのか』 嶋崎潤一




"ゴルフ場のカレーはなぜ高級ホテル並みの値段なのか (幻冬舎ルネッサンス新書 し 2-1)" (嶋崎 潤一)


本書のまえがきに



多くの社会や経済での出来事も実は不動産の切り口から見るとまるで違って見えたりもしますし、社会経済も世界も、実は不動産から見なければ絶対に分からない部分があります。


とかなり強気な文章で始まる。一方、タイトルの『ゴルフ場のカレーは・・・』と明らかに釣りタイトルだし、不安というか怪しさ全開の本ですがはっきりいいますね。すべての人が読んで損はありません。いや、1000円もしなく(買った時の僕の気持ちは900円もする新書は高いな、って正直思いました)、これだけの内容を網羅し、実ビジネスへのヒントもたくさんもらいました。ランチを一回我慢してでも読む価値は十分。


 


どこを切り取ってもレビューのネタになるんだけど、まずは「地価公示価格」から。知っている人には当たり前だけど、この「地価公示価格」は現在の価格ではなく、少なくとも1年半前の価格です。ニュースや新聞で「銀座のどこどこがxx%下落」なんて聞いたことがあると思うけど、このニュースに流れている時には実取引の現場の相場観とは違う。なぜなら実際の取引事例を集計してはじき出される価格なので当然タイムラグはある。つまり「下落」といわれた場所はその前の価格と比較して下がった値段で取引されてきた結果、「地価公示価格」が下落した、ということ。これを理解すると、バブルの崩壊は90年3月に出された通達が引き金になるけど(知らない人は手っ取り早く映画『バブルへGO!』をみるといい)、92年の中盤ぐらいまでは世の中まだまだ浮かれた雰囲気だった。


著者の嶋崎さんの文章が素晴らしいのは自身の経験から得られた知識をひけらかすことなく、また事実だけではなく、その事実から他の経済現象や社会現象に当てはめてエピソードにしている。


 


中盤ではパラオでリゾートホテルの開発で日本人一人の環境下で仕事をしていた時の話を中心に展開される。気候は熱帯性気候の場所なのでスコールが発生する。年間雨量は3800mm(著者の記憶で書かれている)、東京は1500mm程度でパリは600mmほど。でも東京よりも日照率や晴天日率はとても高い(雨はスコール型だからね)。実は他の部分でも言及しているんだけど、表現されている数字や数値、特に平均は不動産には意味がない、と言い切っている。つまり最大最小や最頻値などで特性を見なければいけない、ということで、これは僕らの実生活の中でもいえる。背の大きな人のグループと小さな人のグループがあって、その平均を見ると実はそんな人がいない、という現実があったりする。嶋崎さんのいう不動産は僕の言葉でいうと、土地、土木、建築、および内装や装飾など全般を指していて、常に現実の中で物事を見て判断していくもの、と解釈した。現実の中には経済性や文化、優先度なども含まれる。


 


広さの基準という部分ではゴルフ場一つを単位として見る、というのは今後役立ちそうだな、という印象。ニュースなどでは「東京ドームいくつ分」という表現をするけど、何となく肌感覚としてピンとこない。ゴルフ場一つ分=1キロ平米=100haの感覚があると山手線の内側はゴルフ場63個分、という表現も身近になる。


傾斜の話は誰でも感じる部分だと思う。人の感覚と実際の傾斜にギャップが大きいということ。スキー場の急斜面でも30度台後半ぐらいだよね。一方、下水道などの設備を考える時には物理的な傾斜が必要なので、その辺をどう対処しているかを合わせて考えると『なるほど・・・』と思わず声が出てしまう。


 


書いているとキリがないのでこの辺で。