『天使はモップを持って』 近藤史恵




"天使はモップを持って (文春文庫)" (近藤 史恵)


きっとどんな地域の学校にも都市伝説やら怪談話などがあって、小さい頃は興味津々という気持ちとちょっと怖いって気持ちが入り交じりながら友達と噂話をすることが楽しかった出来事の一つだと思う。大人になって多くの人が会社という枠組みの中で仕事をし始めても噂話に花開くことには変わりないものの、大きな違いはその原因の多くが事実であること(尾ひれがついて大げさになることはしばしばあるけど)、そしてそれが事件になってしまうことでしょうか。ミステリーは映画やTVの世界だけではなく、身近な会社の中にも存在し、名探偵でなくても事件を解決してしまうスーパーマンが近くにいるかも知れません。


 


本書の著者である近藤史恵さんといえばヒット作「サクファイス」の印象が強いけど、元々は身近な日常を題材とした作品が多く、この「天使はモップを持って」もその一つ。そして、近藤さんといえばシリーズものが多い作家さんでこのシリーズも4作品が出版されており、本書はその1作目にあたる。作品がシリーズものになるということは、「ファンがついている」、「作品単体でも、連続性のある面白みでも楽しめる」という読み手から見れば手堅い作品(たまに新しい作家さんの作品にトライして僕には合わなく、挫折することも・・・)であり、初めての方でもリスク無く(?)読むことができますよ。


ここまで書いて何も作品に触れていないことに気づき、少しだけ書いておきますね。主人公は社会人一年目の梶本大介。所属はオペレータルームで女性中心の職場。そして噂では会社のお偉いさんのお嬢さんといわれている清掃作業員のキリコ。キリコは掃除の天才で大介が働いている会社のビル内の掃除を一人でこなしてしまう。キレイにすることをこよなく愛し、さらに掃除をしながらも人が気づかないほんのちょっとの変化を見逃さない観察力を持っている。そんな彼女は頼りない大介を助けながら社内の怪事件(?)を解決していく。


 


これだけでも十分に面白いエンターテイメント小説なんだけど、キリコが掃除を通して感じている人生観がセリフのあちこちに埋め込まれている。これのお陰で作品に厚みが出来ているだけではなく、読み終わった時にきっと部屋の片付けをすることになると思いますよ。断捨離本とは違う意味で『片付けスイッチ』を入れてくれる本かも知れません。