そこは異次元空間だった 千駄木「往来堂書店」


往来堂書店


『東京ブックナビ』を見ながら書店巡りの計画を考える中でとても気になっていた店『往来堂書店』に行ってきた。古書を中心に特徴を出す書店が多い中、いわゆる新刊書で特徴を出し、勝負しているお店。出版業界では有名なお店らしい。


 


最寄り駅は東京メトロ千代田線の千駄木で、谷根千谷中・根津・千駄木)と呼ばれて話題の場所ではある。が、お店(見た目ね)そのものは不忍通りに面した街中にある普通の書店。店頭には雑誌が並び、店に入ってすぐの場所には最新刊が並んでいる構図はいたって普通。だが、その先は全く違う。決して大きな、広い店ではないが数々の工夫を垣間見ることができる。


入って左手の棚には文庫と新書が一緒になって収まっているんだけど、これが出版社にとらわれず作家あいうえお順になっている(ブックオフのような感じ)。よく見るとすべての作家があるわけではなく(場所的な制約もあるし)、さらに数多く取りそろえている作家であっても著作をセレクトしている。いや〜中身を知らなければこんなチョイスはできない。


 


その先の一つの棚はスポーツの棚になっていてその中に目的の一冊があった。山際淳司の『スローカーブをもう一度』。過去に2回は買っている文庫だけど手元にないので元々買おうと思っていた(Webサイト上で取り扱っていることを知っていたので)。ちなみにこの本は昭和60年が初版なんだけどスペース的には非常に限られた(=広くない)空間にもかかわらず、この本が新刊としてそこに存在していることがまず凄い。この本に収められている『江夏の21球』は何度読んでも当時の映像と気持ちがよみがえる。で、ふと隣の本の著者を見ると「江夏豊」になっている。「江川」じゃないよ「江夏」だよ。単純な野球繫がりじゃなく、『スローカーブをもう一度』の隣だから意図的に置かれている。もうこの時点で気持ちは舞い上がっていた。




"スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))" (山際 淳司)


 


その横はIT系の書籍が並んでいて、フェイスブック関連の本がところ狭しと置かれている。ここも半端じゃなく、フェイスブックに関してはかなりマニアックな本まで揃っている。つまりテーマや著者をセレクトしながらもある部分ではかなり深く突っ込んでいる。


 




"編集進化論 ─editするのは誰か? (Next Creator Book)" (フィルムアート社)


ぐるーっと回って反対側を見るとデザインや編集関連の本が収められている棚があり、『編集進化論』という本に呼ばれてしまった。内容は『超当たり』で、書籍や雑誌の編集だけではなく、そもそも編集とは何かをいろいろな角度から説明している。レビューは別途書こうと思っているけど、とにかく内容が素晴らしい。


そしてその横の棚からは森達也の『視点をずらす思考術』を。この本も新書ながら中身が濃い仕上がり。




"視点をずらす思考術 (講談社現代新書 1930)" (森 達也)


 


ここに長時間いたらどれもが欲しくなってしまいそうだったので、この3冊を買って早々に退散した。僕には非常に危険な書店であることは間違いない。街中の書店らしく、雑誌、新刊の文庫などは完全にカバーしながらも残りの部分でかなり思い切ったチョイスをしていることは間違いない。それも表面的な知識ではなく、十分に中身を知らなければできない技の連続。カバーのサイズ(文庫でも出版社によって微妙に違うし)もどんぴしゃだし、カバーしている時の手つきで「あ〜本が好きなんだな・・・」ということは自然と分かる。『往来堂書店』はセレクトだけじゃなく、すべてが別次元だった。また近いうちに行こう、もうちょっと軍資金を持って。


 



往来堂書店


住所:東京都文京区千駄木2-47-11


営業時間:10:00 - 23:00 (定休日なし)  ※年末年始を除く


最寄り駅:東京メトロ千代田線 千駄木駅