読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

親子で楽しめるよ 『ちあき電脳探偵社』 北森鴻

Book




"ちあき電脳探偵社 (PHP文芸文庫)" (北森 鴻)


僕の中には何人かの天才作家にリストアップされた人たちがいる。北森鴻はその一人であり、彼の作品はもう生み出されることはないという事実を考えると残念でならない。料理を描かせたら読み手を『食べたい!』と惑わせ、小説を読みながらいつの間にか美術や骨董、そして民俗学の興味へと誘い込む。それらの知識は全くひけらかすことなく、あくまでスパイスとして使うだけである。そうスパイスなんだよなあ・・・スパイスが効果を発揮するのは元となる料理(作品)が上等だからなんだろう。


そして彼の手にかかると言葉が、文章が、そしてストーリーが変幻自在に繰り広げられる。この作品も過去に読んだことがある読者はそう多くはないだろう。なぜなら1996年〜1997年に『小学三年生』に連載されたのだから。「はあ?」と思ったのは僕だけじゃないだろう。でもなめちゃいけない、大人でも十分楽しめる。それだけじゃない。当時(これを読んだのは3月初旬なので)小学校3年だった娘に読ませたところ「すごい面白かった」という。ちょっと意地悪して「どういうところが面白かった?」と聞くと、内容もポイントも確実に押さえていた。つまり10歳の子供の心を捉え、大人までも惑わすのである。考えてみれば江戸川乱歩にしてもコナン・ドイルモーリス・ルブランにしても、子供も大人も関係なく楽しめるではないか。


 


少しだけ中身に触れておこう。主人公のコウスケは桜町小学校の3年生。お母さんを亡くし、刑事の父と二人で生活している。そんなコウスケのクラスにちあきという転校生がきた。クラス担任は女性の姫岡先生でうけないギャグを連発するキャラで、クラスには女王のカオルがいる。そんな小学校に次々と事件が起きる。カオルは取り巻きを引き連れて探偵クラブを立ち上げる。ちあきの自宅には亡き父が作ったスーパーコンピュータがあり、ちあきがゴーグルのようなものをつけ、指示をするとヴァーチャルな電脳の世界が広がる。そこでのちあきは大人しいちあきではなく、金田一耕助シャーロック・ホームズ顔負けの名探偵になるのである。


 


大人の視点で読むとSF、ミステリーの両方の要素を踏まえ、学校を中心とした日常の中での事件、子供社会のヒエラルキー、そしてありそうなテクノロジーで作品が作り上げられている。そして各エピソードは連作短編の形式を踏んで、コウスケのちあきに対する思いも綴られている。これらの要素が天才 北森鴻の手にかかったら面白くないはずがない。


でも何で『小学三年生』に連載されたの?という謎は残るかもしれない。その答えは解説で作家の芦辺拓氏が書いている。この文章を読んでまた違った北森鴻を垣間見ることができる。能書きはいらない、小さなお子さんがいらっしゃる方は一緒に読んで感想を話しながら楽しんでほしい。その子が大きくなって他の北森作品を「面白い」といったら、その子はもう本当の大人になった証拠だよ、きっと。