読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

タイトルとは裏腹に事件の真相は深いところに 『違いのわかる渡り鳥』 クリスティン・ゴフ




"違いのわかる渡り鳥 (創元推理文庫)" (クリスティン・ゴフ)


この書籍は『本が好き!』から献本いただきました。


 


この作品はシリーズものの第二作目の位置付けだけど、十分に単独で楽しめるのでまずはご安心を。主人公はコロラド州エルクパークでドラモンド・ホテルのオーナーであるラーク。ホテルは翌日から始まる渡り鳥協会の大会に向けて満員御礼。そんな中、友人でもありビジネスパートナーのエスターから「コーヒー豆の納入を無期限で中断する」との連絡が入る。エスターが扱っているコーヒー豆はただのコーヒー豆ではなく、「野鳥にやさしい」完全なオーガニックコーヒーでメキシコの栽培者から直接買い付ける権利を取得し、チーパ・コーヒー・カンパニーを立ち上げた。野鳥をこよなく愛すラークはエスターの会社に出資し、友人としてだけではなく、ビジネスパートナーとしても絆が深まった。


エスターに直接理由を聞く前に幼なじみであるレイチェルと一緒にバードウォッチングに出かけ、望遠鏡越しにエスターの店「ウォーブラー・カフェ」の方向で見たものは黒い覆面を被った何者かがエスターにナイフを切りつける姿だった。


 


物語はこんな風に始まるわけだけど事件の根っこは実は複雑に絡み合ったところに起因していた。メキシコの社会情勢不安、移民問題、もちろんお金と利権に欲が絡んでいるのは当然の話。二国間の政治的な思惑という陰がありながら特別な人が事件を解決していくのではない、というのがこの作品の醍醐味でもある。主人公のラークにしてもホテルのオーナーではあるものの普通の女性であり、並外れた推理力があるとか積極的な行動力があるわけではなく、身近な部分から話を聞き、確認をし、そこで得られた小さなピースを結びつけていきながら事件の真相にせまっていく。ややもすると退屈になりがちな流れを野鳥の話で読み手を引きつけ、普通の人を探偵にしてしまうところはクリスティン・ゴフの力量なのだろう。考えてみればヒーローのような刑事や探偵が出てくる作品はエンターテイメント小説としては面白いもののどこかで「現実的には・・・・」という気持ちがなくもない。日常の中の事件(殺人事件は日常と言えないけど)を普通の人が特別な能力なしで解決していく姿はハラハラドキドキとは違う、ゆったりとコーヒーを飲みながら楽しんでいける味わいがある。ただし、この手のストーリーで楽しめるのは作家にそれだけの力がある場合だけだけど。


 


最後に少しに気になった点を書いておこう。日本語訳がところどころ気になる部分がある。タイトルにしてもそうなんだけど(原題はDeath of a Songbird)、文中でも読みながらしっくりこないところがある。これは海外作品の宿命かも知れないけど、訳文で読む時には翻訳者の力に左右される。もし違う人が訳していたら・・・と思うとこの作品の評価も変わってくる気がする。


これからの季節、上高地とかで野鳥の姿に触れた後に読んだら楽しさが倍増しそうな気がする。野鳥の知識があったらさぞ楽しい作品なんだろうけど、門外漢の僕でも十分楽しめたので野鳥の知識がある人が読んだらたまらないかも知れませんね。