粘りを感じる作品 『探偵はバーにいる』 東直己




"探偵はバーにいる (ハヤカワ文庫JA)" (東 直己)


タイトルからしてある程度想像ができてしまうため、敢えて手に取らずにこれまで過ごしてきた。「何事も食わず嫌いはいけない」と、まずはデビュー作を読んでみることにした。


 


著者が札幌出身ということだろうか舞台は札幌が中心という珍しい設定だ。考えてみれば多くの作品は東京の繁華街で事件が起き、その詳細な描写をトレースして楽しめるのも東京に住んでいるからであり、本当はその部分を差し引いて作品の良し悪しを考えないといけないかな、と思ったりもした。特に今回の札幌は中心地に仕事プラスぐらいでしか知識も経験もなく、そういう意味では作品本筋の面白みだけで判断することになる。


 


僕が好きな作品の中でバーを根城に探偵家業(実際には探偵というよりも何でも屋に近い存在ではあるが)を描いた作品シリーズとしては大沢在昌のジョーカーシリーズがある。探偵というよりも表の世界と裏社会の両方を行き来でき、誰にも頼めないやっかい事を請け負うことで生業をたてている。この作品の主人公「俺」も「ケラー・オオハタ」を連絡先として人捜しやら調査などをしている。が、表だって探偵業の看板を出しているわけではない。


 


今回は大学の情けない後輩から同棲している彼女を捜してほしいという些細な依頼が実は大きな事件に結びついていく、という話である。主人公を「俺」と設定しておきながら本名も出てきてしまうあっけらかんとした文章、地方ならではのローカル感たっぷりの表現、多少強引な交渉シーン(実は主人公は若い)など作品の力量としてはまだまだなのにこのシリーズを続けて読みたくさせる妙な粘りがある。変にマニアックな表現を使わずに、非常に真っ直ぐな書き方で最後まで突き進む。


本当は賢い「俺」は単に組織適応力が不足しているために探偵もどきのアウトローな生活をしている。地場ならではのコミュニケーション力と調査方法を用いて八方丸くおさめる能力は意外に頼りになり、また作品を通しての「骨」のような感じで安定感がある。札幌の土地勘があればもっと楽しめるんだろうなあ、と思いながら次の作品を読む気でいる。