結局なにが言いたかったのか最後まで分からなかった 『ハムスターに水を』 高橋文樹


ハムスターに水を


"ハムスターに水を" (株式会社破滅派)(高橋文樹)


 


この電子書籍『本が好き!』から献本いただきました。


 


本書は献本初の電子書籍でフォーマットもePubということでiPadiBooksのリーダを使って読んでみた。これまでにも何冊かiPadで読んでいるので違和感は無かったけど、iPadを使って電車の中で読むにはちょっと重量があり過ぎるので専らベッドの上で読み進める形になった。


 


さて中身の話だけど僕の中では何とも納得感が薄い作品だったなあ。部分部分ではまとまっているのに全体のまとまり感が乏しく、最終的には何を伝えたかったのかが分からなかった。


大学を卒業して起業を目指したが芽が出ず、流れ流れて栃木の塾講師をして何となく過ごす。そんな中で生きる糧となったのは中学の同級生で絶世の美女 寛美。しかし、彼女は精神的な不安を持っており、支え合いながらというよりも精神的にはお互いに似たもの同士として一緒に暮らしていく。塾の講師という職業も決して恵まれた環境にあるわけではなく、教育理念よりも結果を優先され、企業と同じ経済原理で物事が進んでいく。またその塾の場所は栃木にあり、子供の教育には積極的ではない地域というのが今ひとつモチベーションが上がらない要因にもなっていた。また主人公自身も大学二年の時のおたふく風邪が原因で無精子症になり、将来に対する閉塞感があった。


 


非正規雇用、心の病、障害、地方と現代の多くの若者が持つ不安や環境を描きながら、その中で過ごす恋愛を書きたかったのかも知れないけどどれも踏み込みが甘く、素人っぽさが出てしまっている感じを受ける。たしかに就活が厳しいニュースはよく聞くし、就職率も低いことも知っている。非正規雇用者の環境が酷いことが問題になっていることも分かるけど、それが表面的にしか表現されていないし、読者のストーリーの中に引っ張り込むトリガーにもなっていない。ちょうど話は理論的なんだけど実際に経験していないから話に重みがない人の話を聞いているような感覚。


タイトルにもなっている「ハムスター」も何かのメタファーなのかと思って読み進めていたけど、こちらも納得感がない。カゴの中で飼われ、ゴールに向かえない回し車で一生懸命になっている姿を現代の若者に喩えているのかも知れないけど、そこもちょっと中途半端な感じに思える。また当初からサッカーネタが最後まで続くんだけどサッカー好きじゃなくても知っている部分の表現にとどまっていて効果を発揮していない。


 


もしこの作品が「セルフパブリッシング」ではなく、通常のように編集者がついて共同作業のように進められていたら結果は違っていたのはないかと思っている。作者の思いと編集者の客観性の両方があって『作品』なのかなと感じた、とも言える。テーマとしては「あり」なので、もっと熟成させて『作品』に仕上げてから世の中に出したら違った結果になったかも知れない。