本好きには絶対おすすめ、書店を舞台にしたミステリー 『配達あかずきん』 大崎梢




"配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)" (大崎 梢)


図書館の面白さは新しい作家さんとの出会いがあるから。これは書店とは違い出版社別の分類ではなく、完全に作家の「あいうえお順」になっていることでお気に入りの作家さんの近くで新しい作家さんと出会いの可能性がある。今回は大沢在昌氏の本を手に取り、内容の確認をしていた時に目に入った。『大崎梢』、名前は知らないけど装幀に惹かれて手に取り、その装幀と出版社が東京創元社というギャップが更に気持ちを逸らせた。手に取った本はこれじゃないんだけど、せっかくなので最初の作品から読んでみることに(律儀でしょう)。


 


著者の大崎梢さんは元書店員の方で、本書『配達あかずきん』は成風堂という書店を舞台にした連作短編ミステリーになっている。まず一言を、『素晴らしい!』。ミステリーでありながら、心を暖かくしてくれて、そして書店の裏方の仕事を鏤めながら本好きにはたまらない仕上がりになっている。5つのエピソードがあり、連作短編にありがちな序盤のしつこさ(同じような言い回し)がなく、すっきりとしている。


そして何よりも普段買い手が気付かない書店のいろいろな作業を知ることができ、また書店員さんの気持ちも垣間見ることができるところに感動。思った以上に作業量が多いこと、考えてみれば紙でできている本はかなりの重量があり、作業そのものが重労働であることを改めて気付かされた。


この5つのエピソードでどれが一番いいか、と聞かれると答えに詰まる。というぐらい、どの作品もそれぞれ特徴があり、甲乙付けがたい作品。最初の「パンダは囁く」のパンダは某出版社と誰でも想像するけど、仕掛けはそんな甘くはなかった(それは読んでのお楽しみ)。そしてお客からタイトルも著者も分からない本を尋ねられ、それを探す回想シーンで、



ついこの前も、年配の女性客に「電車が出てくる本」とたずねられ、店の端から端まで探しまわってしまった。お孫さんのために『機関車トーマス』なのか、映画化された伊集院静の『機関車先生』なのか、はたまたフェイントで白川道の『終着駅』なのか。


この一文でやられました。「トーマス」と伊集院静は分かるけど、白川道が出てくるか・・・と。それも『終着駅』。『終着駅』の良さは初期の作品と『天国への階段』を読んでなければ分からないのに。もうこの時点で僕の中では制覇対象の作家入り決定でした。


あ、一番良かったエピソードですよね。『六冊目のメッセージ』かな。書店にいる本に詳しい人は必ずしも書店員さんとは限らない。そんな謎の人物が選択した本に感動したお客さんがお店を訪ねてきた。関連性が無さそうな五冊の本にはちゃんと『思い』があり、実は考えていた六冊目の本がある、というお話。


主人公は社員でしっかり者の杏子と学生でアルバイトの多絵。探偵役はアルバイトの多絵という設定がいい。


 


この本は既に文庫化されているけど、単行本に収められている書店員さんの座談会は文庫本版にはない。この座談会も面白いので単行本の方がおすすめかな。


ちなみに続編も既に購入して読んでいる、という惚れようです。