目新しさはないが、これから行動経済学系の本を読もうと考えているにはおすすめ 『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』 ダニエル・ピンク




"モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか" (ダニエル・ピンク)


購入してから数ヶ月寝かせた末に読んだ。いろいろな方が書いているように目新しさという点はほとんどない。特に行動経済学の本を積極的に読んでいる人にとっては事例も含めて既知の内容だと思う。じゃ、読むに値しない本かと言えばそうではない。モチベーションとインセンティブの関係ならびに課題をソフトウェアのようにバージョンで表現し、親しみやすさを取り入れていることはそれだけ多くの人(特にこの分野の本に触れるのが初めてという人)に理解されやすい可能性がある。また個々の事象から分かることを述べるだけでなく、『比較』しているところがポイントだろう。この辺はダニエル・ピンクの巧さかも知れない。


 


本書は大きく分けると3部構成になっており、1部がこれまでのモチベーション手法の課題を提示し、2部でこれから必要なモチベーションポイントを整理している。3部はある意味でおまけというか、関係する事項の紹介になっている。


1部では「アメとムチ」という表現で報酬と罰で切っている。この部分の研究事例としてデシが調査したものを引用している。



「組織-家族、学校、企業、スポーツ・チームなど-が短期的の成果にばかり注目し、他人の行動をコントロールしようとするならば」、実際には、長期的に少なからぬダメージを与えることになる。


このモチベーション2.0的なアプローチで過ごしてきてしまった人たちが組織を動かす立場でいるとこの傾向は残ったままになるだろう。特にこの報酬インセンティブで上ってきた人にとってそうじゃない人を理解するのは難しいと思う。また(本人にとって)この成功体験が余計に足かせになってしまっているのかも知れない。


また別の箇所ではロシアの経済学者アントン・スボロフの言葉を用いて、



「一度交換条件つきの報酬が与えられたら、似たような仕事に直面したとき、エージェントは再びそれを期待し、プリンシパルは報酬を繰り返し利用せざるをえなくなる。この点において、報酬には(麻薬のような)依存性がある」。


日本のプロ野球界でしょうか。TV放映料などこれまでの前提が変化しているにもかかわらず、全体的に報酬が高騰しているのと選手間であまり適正と言えない感じに見えるのは僕だけでしょうか。それから子供との駆け引きで使ってはいけない禁じ手として認識しておいた方がいいですね。


 


じゃ、モチベーション3.0の要素はなに? というと、


  • 自律性

  • マスタリー(熟達)

  • 目的


の3つ。詳しくは是非読んで欲しいので書きませんが、それぞれに必要なベース要素として『継続性』があるだろうと感じた。どれも一朝一夕にはいかない要素なので手段として『いかに継続していけるか』が違う角度で課題になってくる。つまりこの分野に特効薬も万能薬もない、ということに尽きる。


 


最後に引用されているジェフ・ガンサーの言葉が印象的だった。



「私と同世代の若い経営者が登場するにつれて、多くの会社がこの方法を取り入れるようになるはずです。父の世代は、人を資源と見ています。つまり従業員は、家を建築するときに必要なツーバイフォーなのです」と、ガンサーは語る。「わたしにとってはパートナーシップです。従業員は経営資源ではありません。パートナーなのです」。