1月3日のライスボウルを見たら読んでみて欲しい 『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟』 マイケル・ルイス




"ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟" (マイケル ルイス)


今年読んだ本の中での指折りの一冊だった。誰にでも同じ感動を与えるかどうかは別にして、僕にとってはたまたま興味深く、そして考えさせられる物語だった。


 


1990年頃まで、今とは違ってかなりアメフトにはまっていた。NFLでは49ersが活躍し、ジョー・モンタナは天才QBと呼ばれて大活躍だった。日本でも日大フェニックスがショットガンフォーメーションを武器にダントツの強さを誇っていた。国内の試合の時には時折会場に足を運び、全体が見える位置に席をとって全体のフォーメーションを眺めたものである。TV中継ではボールを中心にカメラが追いかけるため、オフェンス側ではQB、RB、WRなどにスポットがあたり、ディフェンス側ではそれを阻止するためのLBがどうしても注目を集める。僕の中で見るべきポイントが変化したのは89年のパールボウルオンワードレナウンを倒して日本一の座についた試合である。両チームのQBは共に日大フェニックス出身で、若いオンワードのQB 山田は得意のショットガンフォーメーションを中心にレナウンを攻め込んでいた。ショットガンフォーメーションはパスを中心に攻め込むため、QBがLBに攻め込まれるリスクがある。そのため、QBがショットガンフォーメーションで成功するかどうかはオフェンスラインの強さが重要になってくる。この時のオンワードのオフェンスラインは地味ながらも非常に強固で、QB 山田は投げるポジションを確認しながらパスを繰り出すことができ、チームを勝利に導いた。TVの解説もQBのパフォーマンスの高さを評価していた(実際、山田の能力の高さは別格だったが)。しかし、それ以上にオフェンスラインの強さに初めて気づいた試合でもあった。


 


本書に登場するマイケル・オアーはオフェンスラインの一つ、ブラインド・サイドを守る選手であり、NFLにおけるブラインド・サイドの価値を変えてしまった人物でもある。それまでアメフト選手の報酬はQBを筆頭にQBやWR、ディフェンス側で言えばLBといった攻撃の主軸の選手が高く、ラインの選手は低い、という構造だった。が、QBと高い報酬で契約してもシーズンの途中で負傷し、活躍できなければチームの勝率は上がらず、結果、監督やコーチの責任も問われるという時代に入り、優秀なQBの価値を最大化するためにQBを守る役回りの価値がアップする、という現象が発生した。


一方、主人公のマイケル・オアーは体格とその運動能力には恵まれたものの彼の成長期に於ける社会環境はこれ以上ない、というぐらいに劣悪なものだった。どれぐらい酷かったかは是非本書を読んで確認して欲しい。通常で考えれば、彼がNFL入りするのは宝くじに当たるような確率かも知れない。しかし、読み進めていくと彼はラッキーなだけではなく、十二分に努力をし、彼の周りの人たちがそんな彼を支え続けたことが実を結んだことだと感じる。


 


本書はアメフトをよく知らない人にも理解できるように序盤にかなりのページを割いてアメフトのルールや歴史を説明している。が、できれば、TVででも構わないので一度アメフトの試合を見てから読み進めた方がその価値を享受できると思う。スポーツ・ノンフィクション、成功物語としてもレベルの高い仕上がりになっているが、ビジネス書としても価値が高いと考えられる。タイトルにもなっているブラインド・サイドの価値が急に高まったのも経済論理の結果でもある。また米国に於けるNFLを頂点としたアメフトビジネスのヒエラルキーも同時に学ぶことができる。


個人的な見解ではあるけど、もっと評判になってもいい本だろう。